第一話
山奥にある古民家。そこに男が少年を担いでやって来た。勢いよく扉が開け放たれる。家主である老人の男性はちょうど草履を履こうとしていたところだった。少年を担ぐ男の姿はまるで米俵のようだ、と老人男性は思った。
何の用か尋ねると、男は白い歯を見せて答えた。
「面白いガキを見つけたんだ」
男は少年を玄関に下ろし、それから老人に頭を下げた。
「勘之助さん。こいつに魔衣の扱いを教えてやってくれませんか?」
少年も頭を下げる。老人はため息を吐いた。どうやら男は面倒ごとを持ってきたようだ。
☆
半年後。少女が山奥へ入る。手には、地図が書かれた紙を持っている。少女の目的は勘之助という老人男性を避難させることだ。
ここは最近【鳥居】が発生しやすい、危険区域となった場所だ。
鳥居。それは大昔の頃から妖怪を封じていた結界の綻びのようなもの。今までは妖怪のほとんどを永続的に封印することに成功していたが、時が経つにつれ、その封印の効力は弱まっている。そして現在、鳥居の発生は増えている。その度に、鳥居から現れた妖怪を退治したり、逆にこちらから鳥居へ侵入して退治してきた。
そんな危険なものが発生しやすい場所に住む理由。それはわからない。とにかく少女の仕事は、老人をこの山から引き離すことだ。
「あ、見えてきた」
山奥にぽつんと家があった。少女が家に近づいていくと、何かを叩いている音が、まばらに聞こえた。
家の玄関に足を踏み入れてみる。人の気配はしなかった。
「誰もいない……?」
音のする方へ行ってみようと考えた少女は、家の裏手に回る。裏手には、手入れの行き届いた広い庭があった。庭では、勘之助と思われる老人と、白髪の少年がいた。二人とも木刀を手に持ち、打ち合っていた。
「やあああああ!」
少年が叫び、木刀を振るう。稽古をしているようだ。
音の正体はこれか。こっそり二人を覗く少女が足元の枝を踏んだ。枝の折れる音が聞こえ、二人が少女に気づく。
「誰だ?」
と、老人が尋ねた。少女は二人の方へ近づき、挨拶をする。
「はじめまして。衣舞と申します。勘之助さん、ですよね?」
「ああ。勘之助はわしだ」
「この土地は鳥居が発生しやすいため、住民には避難命令が出ているはずです。一刻も早く避難をお願いします」
「断る」
「いや、しかしですね」
「帰れ」
短くそう言うと、勘之助は稽古を再開した。帰れと言われても。困った衣舞だったが、覚悟を決めた。稽古が終わるまで待つことにした。今回の任務は長期戦になりそうだ。
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