本編

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「明る」  建物の外に出てそう呟いた自分の声は、他人のものみたいだった。まだ空は一面青く、西日が建物にわずかにオレンジ味を与えていた。  死角から後ろに子供を乗せたママチャリが目の前に飛び出した。温かい風が私に吹きつけた。「危な」と呟いた声は、既に小さくなっていったそのママの背中に追いつかなさそうだった。  ゆっくりと駅に向かって歩き出した。こんな時間に外に出されても、どうしたら良いか分からなかったのでいつもと同じ道を歩いた。  黒いパンプスの内側が削れている。歩き方の癖のせいだった。パンツスーツはぴっちりと太もものラインを出していた。その脚に、指から毛の生えた手が触れた。 「あー」  声が出た。その手は消えた。その男は、まだオフィスにいる。徒に足を大きく前に放り出して歩き続けた。一回、足を捻った。痛みを感じたので、またゆっくりと歩いた。  歩くことだけに、集中できた。

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