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本棚に追加 浜尾ビルが取り壊されることは、ローカル放送局が発信する夕方六時のTV番組で知った。
その雑居ビルは、近頃息を吹き返しつつあるという地元の商店街の外れにポツンと建っていた。
老朽化による崩落の危険性は以前から指摘されており、今回は近隣に居住する市民らの要望に応える形で、行政主導の解体作業が行われるようだった。
これでようやく安心できそうです、と老婦人のコメントが放送される。
それと同時に、立ち入り禁止、の看板が掲げられた浜尾ビルの一画が映し出された。
ひび割れた灰色の壁。薄汚れたモルタルの上に、薄い桃色の塗装が僅かに残っていて、その淡い色合いが余計に寂れて見える。
金属製の配管は留め金が外れて宙ぶらりんの状態になっており、かつて営業していた飲食店のネオン看板はかなり変色していて、過ぎ去った月日の長さを感じさせた。
あのビルも、かつては多くの飲食店で賑わっていた。
店のほとんどがいわゆるスナックバーだった。
報道されていた解体の日取りを手早くスマホのメモに控えた幹也は、それを自分のスケジュールに照らし合わせた。
同じ県内とはいえ、縦に長く伸びた地理の南端に位置する地元の町まで足を延ばすとなれば、それなりの時間が必要である。
それでも幹也は、取り壊される前の浜尾ビルを、最後に一度見ておきたかった。そうしなければならない責任があった。
十五年ほど前。
既に寂れかけていた当時の浜尾ビルでまだ細々と営業していたスナック「ひとみ」。
あの店が存続する可能性を断ち切るきっかけをつくったのは、当時まだ高校生だった幹也だ。
テレビ番組のコーナーは切り替わり、興奮気味のキャスターが地元のサッカーチームの勝利を伝えている。幹也はリモコンを手に取った。静まった自室で思い返すのは、柔和な人たらしの微笑みを浮かべて話しかけてくる、あの日の比呂だった。

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