噂のカップル
どうやらこのクラスに、じれったい両片想いカップルがいるらしい。
両片想いの状態でカップルと呼ぶのかは定かでないが、人の恋バナ大好きな俺としては何としてもそのじれキュンぶりを拝みたいところだ。
だが噂は噂、本当にいるのかどうかも分からない。こんなに探しても見つからないなんて。
「いないなぁ…お前は?心当たりとかない?」
「さぁねぇ」
相変わらずやる気がないなぁ。まぁ別にいいけれど。
ざわざわと騒がしい見慣れた教室を注意深く観察しながら、俺は背後にいる友達にまた声を掛けた。
「やっぱ分かんない。このクラスにいるらしいんだけどなぁ…」
「そんなに見たいの?」
「もちろん!」
「おっと」
俺が勢いよく振り返ったからか、いつもよりほんのちょっと目を見開いて驚いたらしい薄緑色と視線が合う。相変わらず綺麗だ。春の新緑みたいな色。いつも眠そうにして、重力に逆らわない長い睫毛で半分くらい覆い隠されている友達の瞳に思わず見惚れてしまう。
いや違う、今はそれどころじゃなくて。
「にしても、いたらすぐわかりそうなもんなのになぁ」
「そうだねぇ」
「何でも、四六時中くっついてて無自覚にいちゃついてて、当人には自覚がないっぽいからむやみに揶揄えないけど絶対両想いだから早よくっつかんかい!って思わず叫んじゃいそうになる二人らしいんだけど…。そんなのいたらやっぱすぐ分かるよなぁ」
クラス…いやそもそも学年が違ったのかなぁなんて。
教室中をいくら見渡してもそれらしい二人は見当たらない。おかしい。確かにこのクラスだって聞いたはずなんだけど、やっぱり聞き間違えたのかもしれない。
「ていうかさ小山くん」
「なぁに四宮くん」
「そのカップル?見つけてどうすんの?」
「え、もちろん応援したい」
「どうやって?二人は両想いだから安心しなよーとか言うの?」
「そんな無粋なことしない!影ながら応援する」
「影ながら?」
「そう!」
俺が意気込むと、肩の上から「はああぁぁぁー」と特大溜め息が零れた。くすぐったいのでやめてほしいと身を捩るも、背後からがっしり抱き込まれているので逃げ場はないし、動けば動くほど抱き込む力が強くなる。ちくしょう鍛え方が違う!
新緑みたいな瞳を持つわが友の膝の上に、俺は座っている。というか座らされた。抜け出すのも面倒なのでこのままにしていたら、肩の上に顎を乗せられたり額をぐりぐりされたりしている…。
いくらなんでも距離が近いんじゃないかとはじめは思わないでもなかったが、なんかもうこういう奴なんだなと思って放置することにした。全く、隙あらばいつも抱き着いてくるしお昼は普通にあーんしてくるし…本当に距離感がおかしいんだよなぁ。
「そのカップルってさぁ、どんな風にいちゃついてるんだろうね」
「どんな風に、とは?」
「四六時中一緒にいるんだろ?座る時は同じ椅子に座ってたりとかさ」
「同じ椅子に座るのは無理があるだろ!」
あはは、と笑い飛ばすと俺の下に座っている…すなわち同じ椅子に座っている彼がふっと口角を上げた。馬鹿にしたような笑みを隠しもせず「へぇ?」と意味ありげな視線を送ってくる。
そうっすね。確かに俺らは同じ椅子に座ってますね。
まぁ正確には、座らされたんだけどね。
「てかさ、そろそろ降りてもいい?」
「だめ」
「俺重いよね?」
「まぁまぁだな」
そこは嘘でも「軽いよ」って言わないんかい!
俺を馬鹿にすることが生き甲斐みたいなこの男、にやりと笑うだけで周囲が色めき立つのがまた気に食わない。今の笑み、馬鹿にした笑みだよ。みんな騙されてるよこいつに。
もういいや。今の俺の優先順位はその噂の両片想いカップルを見つけることなんだから。
「あーあ、本当にどこにいるんだろうなぁそのカップル」
「どこだろうねぇ」
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