「ヨシ! 花見だ! マエ、付き合え!」
「えっ? 仕事はどうするんですかー!」
秋森は公園を指さしていた。そしてスチャっとスマホを取り出している。
「もしもーし、秋森と前島は午後からお休みしまーす」 簡単にそれだけを電話で話した。
「そんな休みの取り方良いんですか?」
「所長は了解してくれたよ」
悪そうな笑顔が秋森のもとにはあった。
今のは所属している弁護士事務所の所長に直電して許可を得たのだ。忙しくしていた秋森なので稼ぎは十分。それに今仕事を終わらせたばかりなので急ぐべき仕事はない。なので簡単に休みをとれた。
「だからって部下を付き合わせるとはひどい上司だ」
「あんだって? あたしのデートの誘いを断るってのかい!」
いつもの秋森の冗談。しかし、前島は真剣な目で秋森を見つめた。
「そんなに怒ることかいな?」
あまりに睨んでいるので秋森が首を傾げてみた。
「親分の命令を逆らうと怖いんですよね」
またため息が落ちる。しかし「ビールで良いんですか?」と前島は丁度公園の前にあったコンビニを示した。
「酒は要らない。桜を楽しむんだからコーヒーで十分、買ってこい!」
秋森は極度のコーヒー中毒。アルコール類よりも大好きなのだ。
「それってパワハラですよ」
文句は言うのだが、前島はきちんとコンビニへと向かう。秋森に法律問題で勝てるわけがないし、このくらいのことで問題提議するつもりもなかったからだ。
秋森のほうは公園へ向かってのんびりできそうなところを探す。見渡してみても遊具もなく桜があるだけの公園に人は少ない。近所の老人が一つだけある東屋でお喋りしているくらいだった。
もう花見シーズンも終わっているので場所取りなんて簡単。秋森は東屋のほうではなくベンチに陣取って前島を待った。
バッチリと秋森のコーヒーの好みも知っているのでコンビニで、普段より少し甘めに作ったコーヒーと口直しのクッキーを持って秋森のもとに向かった。
「ご所望のコーヒーでございます」
丁寧すぎる言葉と、膝までついているのでこれは冗談なのだが「うむ、苦しゅうない」と秋森もご満悦だった。
葉の緑が多くなった桜を眺めてコーヒーを飲む。休憩のときだけカフェオレにして、今はちょっと甘めなのが心を落ち着け「美味しい」と自然に秋森は呟いていた。
「親分がほめてくれるなんて雨でも降るんですかね?」
今の言葉に嬉しくなった前島がニコニコしていたが「今のは独り言だ」と秋森は前島の手柄をほめたりなんかはしない。
「別にほめてくれたって良いのに」
ぶつぶつと前島は返すが、秋森はにこやかに笑う。
この二人はこんな風に軽い冗談を言い合っているのが似合っているし、二人としてもそんな時間が随分と楽しかった。
話し始めて暫くすると、近くの桜の木の下に十人ほどの人間が集まってブルーシートを広げ始める。そしてどんどんと荷物を運んでいた。
「今時、花見なんですね」
「気にすんな。今、こっちは良い気分なんだから」
今日は暑くもなく寒くもない。そしてまだ花の残っている桜に静かな雰囲気。そこにコーヒーがあれば秋森にとって至福の時間だった。
日向ぼっこをしている老人たちも話をしていて時折笑い声が聞こえるが、うるさい程ではなく良い雑音になっていた。
鳥の鳴き声が聞こえるくらいの静かさに時々人々の楽しい声が聞こえ、秋森と前島も基本的に面白い話題を探してのんびりとした昼下がりを楽しんでいた。
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