誰の「"ただいま"」

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誰の「"ただいま"」

いつも通り、「ただいま」と言って玄関を開けた。 そこに、見覚えのない赤いヒールが並んでいた。 ……見覚えがない。 ……誰の?   一瞬だけ足が止まる。でも、すぐに気にしないふりをして靴を脱いだ。 「ただいまー。誰か来てるの?」 何事もなかったように、家にいるはずの裕太に声をかけた。 部屋の中から、笑い声が聞こえてくる。 そしてーー女の声。 どくん。 心臓が跳ねた。 私の声は聞こえてないのか。 裕太の声は聞こえない。 部屋の前ーー私は大きく深呼吸をした。 「おかえり〜」 裕太のいつも通りの対応。 ソファに、知らない女の子が座っていた。 髪が長くて、制服でーー。 ーー息が、止まった。 「それより……」 裕太が、口を開いた瞬間。 制服の女の子が口を挟んだ。 「裕太〜。コンビニ連れてって〜」 女の子が、甘えるように体を寄せた。 「そうだな。由香、一緒に行こう!」 (……由香?!) 私はその名前を、心に刻んだ。 でも、裕太のその言葉を聞いても、私はうまく理解出来なかった。 ーー一体何が起きてるの? 言葉にならないまま、ただその場に立ち尽くす。 2人が出ていく玄関の鍵の音だけが、やけに遠くで響いた気がした。 あの赤いヒールが、頭から離れない。 コンビニから帰ってきた2人を、私は部屋の中で待った。 「ただいま〜」 いつも通り、変わらない声。 「……」 私は何も言えなかった。 ーー何でこんなに普通なの? さっきまでの違和感が、胸の奥に残ったままだった。 「その子は誰なの?」   「……誰のことだ?」   ーー何よ、それ。 「ちょっと、2人で出かけてくるわ。お前はここで待ってろよ」 裕太はそう吐き捨てた。 何かが、決定的に壊れた気がした。 2人が出かけている間。 自分の思考がまとめられない。 何が起きてるのか、分からない……。 無造作に、私は掃除を始める。 何かしていないと、落ち着かないから。 何でもいい。気を紛らわせたい……。 普段、出しっぱなしだった小物類を、整理整頓し始める。 その中で、不意に目を引いたもの、それはーー 1枚の写真だった。 若い2人が笑い合っている……。 これはーー。 その写真を、思わず二度見した。 裕太が、笑っている。 その隣りにいるのはーー 髪の長い女の子。 制服で。 (……由香?!) 名前が、頭に浮かんだ。 そして、よく見ると写真の端にあの赤いヒールが写っている。 ーーこんなところ、知らない……。 ……違う。 ……これは、私じゃない。 その瞬間、ふと目についたもの……。 真っ赤な手提げバック。 ーーこれって、もしかして……? 私はそのバックの中身を見る。 ーーいつ、2人が帰ってくるのか。 心臓が激しく音を立て続けた。 ボールペンが1本ーーそれだけが私のものと同じだった。 しかし、それ以外は、見覚えのないものばかりだった。 その瞬間、玄関の鍵が開く音がした。 私は慌てて、バックを閉じる。 「ただいま〜」 もう一度、同じ声が聞こえた。 そこに、女が立っていた。 「ねぇ……何で?」 軽く息を吐いて、女は続ける。 「なんで……ここにいるの……?」 その声は、私の方を見ていた。 ーーそれは、私の声だった。 それでも私は、私だと思っていた。

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