検疫所からの電話

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「非常に強い感染力を持つサーズⅡが、東南アジア方面で猛威を振るっています」 朝のニュースが、いきなり特別番組に変更されていた。 すぐに画面が切り替わり、高田首相の顔のアップが映された。 「皆さん、落ち着いて下さい。強い感染力が心配されているサーズⅡですが、日本国内には断固として入れない事を、ここでお約束します」 その後、混乱している、成田空港第一ターミナルの動画が流された。 (あら、大変ね……) 他人事のように思っていた私は、いつも通りに朝日市役所へ登庁した。 朝日市役所では、海外旅行へ行く前に「渡航届」を出す決まりがある。 私は、その取りまとめをする立場なので、海外旅行者が少なくなるのは大歓迎だった。 席に座ると直ぐに、1本の電話が掛かって来た。 よく見ると、家の固定電話から転送されたものだ。 普通、仕事中の電話は無視するのだが…… 「成田空港検査所 検疫課」の文字を見て、思わず出てしまった。 「吉田隼人様のご家族でしょうか?」 「はい、妻です」 「吉田様ですが、本日の早朝シンガポールより帰国されましたが、高熱のため日本に入国出来ておりません。 また、簡易検査ですがサーズⅡの陽性反応も出ております」 「えっ、人間違えでは?主人なら九州へ行っていますよ」 「いえ、パスポートで確認済みです。それで、明日以降、必要な品の持ち込みをお願いしたくご連絡いたしました――」 入院に必要な書類やグッズの説明が続いて、私は必死にメモを取ったが、頭の芯は冷えていた。 その後の調査で、今の電話が本物だと言う事も判明した。 検疫官が言ったことが正しければ、夫はシンガポールから帰って来きたことになる。何でそんな嘘をついたのだろう? 私には「九州の叔父さんの所へ行く」と、言ったのに。 昨日だって…… 「叔父さんが苺をたくさん食べてくれた」 そんな、喜びのLINEが来たばかりだった。

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