窮地脱出

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         今、古より築かれた王国双月が存亡の危機に瀕している。  先に仕掛けたのは、近隣諸国が手を組んだ連合国からだった。戦が起こる気配はしていた。しかし、こんなに早く乗り込んで来るとはまったく予期していなかった。少なくとも準備にあと二年は猶予があると踏んでいたのだ。最早双月国に勝ち目はなかった。      若い国王は荘厳な態度で玉座に腰を据え、瞼を下ろし何かをじっと待っている。若い。二十後半になったばかりだろう。漆黒の髪と瞳は魔界の悪魔を連想させる。     「陛下、たった今お連れ致しました!」      その時、慌ただしい足音を響かせながら扉が開かれた。そこでようやく国王は重い瞼を上げる。     「間に合ったか……」     「貴様何をするっ!気安く陛下以外がわたしに触るなっ!」      低い落ち着いた声とよく通る声が重なる。     「軍事大国カーディスの第2王子、シオン・ガーネット様です」     「無礼者! わたしの名を勝手に呼ぶな! そんなに早く死にたいか!!」      子どものように喚き散らす王子を国王はじっと観察した。
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