あそぼう

1/1
前へ
 /1ページ
次へ

あそぼう

 紙コップに注がれたジュースが、踏み切りの脇に置いてある。  列をなす蟻たちが、蛇行しながらコップの中へ入っていった。    ふと気になり、中を覗く。  ジュースかと思っていたが、ゼリータイプの殺虫剤だった。  ここ数日、蒸し暑かったためドロドロに溶けてしまったらしい。  蟻たちは我先にとびこみ、溺れていくばかり。誰も気づかないし、他の蟻も知らせようとしない。  よほどいい匂いがするんだろうか。  人間にはわからない、虫だけが好む、独特の匂いが。  紙コップを拾い上げて、確かめる勇気はないし、屈んで見ていると声がした。  すごいでしょ。  幼い頃の、私とそっくりな声。  振り向いても、そこにはシャッターが閉まった、駄菓子屋があるだけ。  子供の姿など、どこにもない。  あの頃、虫の足や羽根、首をむしったりして遊んでいた。  今では部屋に入ってきただけで、大騒ぎするほど苦手で仕方ない。  もしできるなら、嫌味ったらしい同僚や、手柄を横取りする先輩の指でもいいからむしり取って、ゴミ箱へ放り込んでしまいたい。  ふと、蟻たちがそいつらみたいだなって思えてきて、口の端がにやけてしまう。  化粧室へ行くにも、いい年をしてゾロゾロと、列をなしていく連中だ。  私は紙コップを見下ろしたまま、片足でグシャっと、踏み潰す。  じゅぐじゅぐと中身がアスファルトにしみこんで、酸っぱい匂いが漂った。  また遊ぼうね。  約束ね。  幼い私が囁くので、静かに頷く。  そしてパンプスの底をザリザリと、アスファルトへ擦り付けた。  

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>