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紙コップに注がれたジュースが、踏み切りの脇に置いてある。
列をなす蟻たちが、蛇行しながらコップの中へ入っていった。
ふと気になり、中を覗く。
ジュースかと思っていたが、ゼリータイプの殺虫剤だった。
ここ数日、蒸し暑かったためドロドロに溶けてしまったらしい。
蟻たちは我先にとびこみ、溺れていくばかり。誰も気づかないし、他の蟻も知らせようとしない。
よほどいい匂いがするんだろうか。
人間にはわからない、虫だけが好む、独特の匂いが。
紙コップを拾い上げて、確かめる勇気はないし、屈んで見ていると声がした。
すごいでしょ。
幼い頃の、私とそっくりな声。
振り向いても、そこにはシャッターが閉まった、駄菓子屋があるだけ。
子供の姿など、どこにもない。
あの頃、虫の足や羽根、首をむしったりして遊んでいた。
今では部屋に入ってきただけで、大騒ぎするほど苦手で仕方ない。
もしできるなら、嫌味ったらしい同僚や、手柄を横取りする先輩の指でもいいからむしり取って、ゴミ箱へ放り込んでしまいたい。
ふと、蟻たちがそいつらみたいだなって思えてきて、口の端がにやけてしまう。
化粧室へ行くにも、いい年をしてゾロゾロと、列をなしていく連中だ。
私は紙コップを見下ろしたまま、片足でグシャっと、踏み潰す。
じゅぐじゅぐと中身がアスファルトにしみこんで、酸っぱい匂いが漂った。
また遊ぼうね。
約束ね。
幼い私が囁くので、静かに頷く。
そしてパンプスの底をザリザリと、アスファルトへ擦り付けた。

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