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本棚に追加第1話 呼吸する家
主人公は、母の介護のために古い実家へ戻ってくる。
その家は、夜になると壁の奥から微かな呼吸音がする。
最初は配管の音だと思う。
けれど耳を澄ますと、それは明らかに人間の呼吸だった。
すう、はあ。
すう、はあ。
しかもその音は、主人公の呼吸とぴったり重なる。
主人公が息を止めると、家も息を止める。
主人公が浅く息を吸うと、壁の奥も浅く鳴る。
寝たきりの母は、夜になると必ず言う。
「この家に逆らっちゃ駄目よ。息を合わせなさい」
主人公は気味悪がるが、母は本気で怯えている。
食事中も、廊下を歩く時も、風呂に入る時も、家全体が生き物の肺のように膨らみ、縮む。
ある夜、主人公は仏間で古い日記を見つける。
そこには、父も祖母も祖父も、死ぬ前に「家と呼吸が合わなくなった」と書いていた。
そして母が死ぬ夜。
家の呼吸が完全に止まった。
母の死後、主人公はようやく解放されたと思う。
だが深夜、壁の奥から新しい呼吸が聞こえ始める。
それは母の呼吸だった。
続いて父の呼吸。
祖母の呼吸。
祖父の呼吸。
家は死者を閉じ込めていたのではない。
死んだ家族の呼吸を保存し、次の住人に重ねていた。
主人公は逃げようと玄関へ走る。
しかし扉に手をかけた瞬間、家中の呼吸がぴたりと止まる。
静寂の中、壁の奥から聞こえてきたのは、まだ生きているはずの主人公自身の呼吸だった。
解説は以下
解説
怖さの中心は「家が襲ってくる」ことではなく、家族として暮らしてきた場所に、自分の生死を先に記録されていること。
家は怪物のように暴れない。息を真似るだけ。
だから逃げ場がない。
最後に自分の呼吸が壁の奥から聞こえることで、主人公はすでに家の一部として登録されていたと分かる。

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