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本棚に追加放棄
七十八対八十。わずかに足りない。残り時間は一分もない。このままでは試合に負けるだろう。
どうすれば。高校三年の三角は勝ち筋を思考する。この試合は県予選。負けていい試合ではないのだ。
首元に垂れる汗。男子たちの応援の声。バスケットボールが弾む音。そのどれもが煩わしい。
「リバウンド!」
誰かが叫んだ。相手チームの放ったシュートが外れ、コートへと落下。ボールは味方の手に。
「いける、いける!」
チームメイトの長沢が大声で鼓舞した。誰よりも長身で、スリーポイントを得意とする長沢がゴールへと走る。三角もゴールへと動く。あと一回。あと一回、シュートが決まればまだ負けではない。追いつける。
「何が何でも死守しろ! それで試合終了だ!」
相手チームの監督らしい男が怒鳴る。うるさい。終わらせてたまるか。走る三角に味方がパスした。ボールは三角の元に渡る。しかし、相手チームの一人が三角を阻む。当然か。死に物狂いの表情が、動きが鬱陶しい。
どうする……。
もう時間がない。自分で決めるつもりだった三角だが、周囲を確認した。普段の癖が抜けない。思えば、肝心な場面ではほとんどパスを選択している。三角自身、普段のキャラとしても自分でシュートを決めるようなタイプではないと感じている。だが、スポーツでそんなことを言っていては役に立たない。それになにより、自分でシュートを決めたい。
「三角!」
長沢の姿が視界に映る。長沢にも一人、付いているが背は低く、疲労が見える。そして長沢のいる位置からシュートを決めれば、三点入る。絶対ではないが、追いつくどころか勝てる状況だ。パスを出せば、確実に長沢はスリーを狙う。今までの日々の積み重ねがそう訴えてくる。
うぜえ……。
三角は自我を捨てた。両手で長沢へとボールを投げた。それは反射で行ったわけではなく、考えた末に決めたわけでもない。むしろ思考を放棄した結果だった。
「あ……」
三角の内に、何かが芽生えた気がした。ボールを放った瞬間、何かを手放したような不思議な感覚が襲う。長沢がスリーポイントを狙ってシュートした。皆が息を飲む。もし外したら、リバウンドからボールを奪って今度こそ自分が。シュートを決める時間など残っていないだろう。それでも三角は願ってしまった。
決まらないでくれ。
シュッ、と吸い込まれるようにボールはゴールへ入る。残り三秒。二、一。ブザー音がコートに響き渡る。
「勝った」
つぶやいた三角の声をかき消すような、湧き上がる観客たちの声。八十一対八十。逆転劇だ。万々歳。全て上手くいった。それなのに。
「三角!」
チームメイトにもみくちゃにされている長沢が三角の名前を呼ぶ。はっとなる三角。すぐに三角は笑顔を作った。別に、もういいか。三角は思考を放棄する。
「長沢、やったな!」
皆の和に入る。先ほどまであった、わだかまりのようなモヤモヤとした黒い感情はどこかへと消えていった。

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