5人が本棚に入れています
本棚に追加Only noise in my ear
【ノイズしか聞こえない】
その店のドアを開けた途端、耳に届いたザワザワとした雑音は酷く耳障りだった。
「王子様がきたぁー!!」
その声が合図だったみたいに、そこに集まった奴らが一斉に俺を見た。
「わぁ!歩哉くんだぁ!やぁだぁ相変わらずカッコいい!」
「ねぇねぇ、こっち座ってよ」
見覚えのある女たちが詰めて席を空けたが、俺は無視してかつてのダチの隣に座った。
「よぉ、歩哉久しぶりだな!」
「おう、恭介に高ちん、お前成瀬か?久しぶりだな」
――10年ぶりに集まった中学の同窓会は、男も女もあの頃のガキ臭い顔はしていなくて、どいつも飾り立てていた。
俺は、もしかしてと思って集まった面々を確認したが……やっぱりあの子は居なかった。
「なになに?歩哉誰か探してるの?」
「ああ。白石穂乃香は来てないのか?」
すると名前すら思い出せない女が喚いた。
「ええ?白石ぃ~?なんで歩哉くんがあんなのを……」
そう言ってからハッとして口を押さえた。
「白石って、あれでしょ?風俗で働いてるって噂だよな?」
「あー!そうそう、金井が見たって……ねぇ?」
俺はその場で急に語られだした噂話で、膝の上に置いた拳にちからが入った。
「……だとしても、理由があるんだろ?職業差別とかダセェな」
誰にも聞こえない声を口の中で呟いていた。
―――
顔を赤らめた連中は、段々と常識や遠慮をなくして、思ったままを口にした。
「白石ってさ、あの頬の傷ちょっとグロかったよな」
その言葉に女どもがコソコソと話し出した。
「あんな目立つ傷でも、そういう店で働けるんだ?」
「逆じゃない?あんな傷あるからそういう世界でしか働けないとか?」
声を落として話してるが、俺には聞こえていて正直怒鳴りたい衝動を抑えるのが難しかった。
「いやいや~整形でもしたんじゃない?流石に無理でしょ、アレみて勃つ男いんのかよ」
女たちの小声の会話を拾った高ちんの言葉に俺は限界になって、席を立った。
「歩哉どうした?おっかない顔して……」
「下らない会話ばっかつまんねぇ。白石に会いたくて来たけど、いねぇし帰るわ」
「……え、歩哉くん……嘘でしょ?」
「……なんで?」
俺が店を出る直前、そいつらの席から聞こえた。
「バケモンに会いたかったって、アイツどうしたんだ?」
その言葉で思い出した。白石の中学の時のあだ名は『バケモノ』だったな。
あの頃の残酷な呼び名で、俺は血が逆流して店の外に出た瞬間壁を思いっきり蹴った。
――知らないくせに。
白石がすげぇいい子だったのを、アイツらは知りもせずに、ただ顔の傷だけでバケモノ呼ばわりしていた。
俺はあの雨の日に見た白石の姿を思い出していた。
♢♢♢
学校の途中の道で、車に跳ねられたらしい猫の死体があったと、その日の朝それをみた級友たちが話題にしていた。
俺もそれを見た。跳ねられた時にガードレールの花壇に落ちたらしいその死体。
ああいうの誰が片付けるんだろうと思っていた。
その日、部活を終え帰宅する時
朝から降っていた雨は激しさを増していた。
傘を差しても横殴りの雨が制服を濡らしてくる。
猫の死体があった花壇に近づくと、屈みながら傘を差していた背中を見た。
それが白石のものだと隣に立ってやっと分かった。
『白石、なにしてんの?』
『あ、園部くん。この子をウチの庭に埋めてあげようかと思って……』
そう言いながら白石は自分のタオルにその猫を包んでいた。怖くないのかな?って俺はちょっとだけビビっていた。
『そういうの、行政がなんとかすんじゃねぇの?』
『そうなんだ?物知りだね。でも、朝から放置されてたみたいだから……』
そう言って立ち上がった白石の腕には、大事そうに抱き抱えたタオルに包まれたソレがあった。
『白石、怖くないの?』
『ちょっと、怖い。死んだ生き物って初めて見たから。でも、可哀相だから……じゃ、園部くん。私帰るね』
片手で猫を抱き抱え、もう片方の手で傘とスクバを持ちながら白石は帰っていった。
俺の家では前に猫を飼っていた。ソイツが亡くなった時のあの悲しさを何故か思い出していた。
『気持ち悪い』とクラスの誰もが言っていた猫の死体を、白石は大事そうに抱えていた。
白石は、なんか……すげぇな
俺はあの日から白石のことが気になって、気がつくといつも白石を目で追っていた。
結局、接点がないまま卒業したけど。
あれからずっと後悔していた。
話しかけて友達になりたかったな。
♢♢♢
「白石、どうしてんのかな……」
俺は誰もいない場所で呟いた。
きっと、何か事情があるんだろうな。
そんなところで働いてるって、どんな事情抱えてるんだろう……

最初のコメントを投稿しよう!