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本棚に追加 暑い日が続いている。前島芳樹はそんな風に思って仕事が少ないこともあって今は休憩をしていた。
その横の離れたところから楽しそうなおしゃべりの声が聞こえている。当事者はこの弁護士事務所の弁護士と受付の女の子だ。どちらも業務中なのだが、このくらいのおしゃべりは寛容されている。それは弁護士の仕事というのがどんなところから得られるかわからないから。単なるおしゃべりも情報交換になって仕事につながることもあるのだ。
そのおしゃべりに興じている弁護士は秋森穂乃果。秋森は優秀な弁護士だ。しかし、彼女は普通の弁護士とは少し違う。それは裁判によらない事案の解決を得意としていた。
そしてそのおしゃべりの相手の受付の女の子は中原綾香。普通に法律の知識とかもなく受付として雇われたのだが、もう半年以上勤めているのでそれなりに知識は付いてきている。年齢的にはまだ若く、秋森より一回りほど違い、前島よりも5つ以上若かった。
「あんなに若い子と話が通じるのか」
まず秋森に聞かれたら鉄拳が繰り出されるだろうが、前島の印象で独り言を放っている。当人たちはそんな心配なんて無用な様子で仲良くニコニコと楽しそうに話している。そしてこんな姿は最近よく見られていた。
「いま、このスコーンに沼ってるんですよ」
どうやら会話はティータイムのお菓子の話。秋森は中毒でもあるコーヒーではあるのだが。
「沼ってる?」
最近の人間ではない秋森なので若者言葉がわからないみたい。一応前島はわかっていたが、そんな訂正を横からするのも危険ではあった。
「えーっと、最近の私の好きなものです。昔の言葉で言うとマイブーム?」
「マイブームって昔なんだ」
そんなジェネレーションギャップに秋森が軽く傷ついている。しかし、気にしないようにして「推しっていうんじゃないの?」と会話に付いてくようにした。
「推しってもっと尊いものですよ」
「違いが、よく分からないけど」
話しながらも中原は秋森に持っていたスコーンを少し割っておすそ分けした。
「んん! これはコーヒーにも合う!」
秋森にとってもそのスコーンは美味しかった様子。前島は「沼る」と若者を理解して良いなと思いながら、そのスコーンを見ると、なるほど最近「美味しい」との評判を聞くようになった近所のお菓子屋さんのスコーンだった。

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