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本棚に追加雨男の僕をあざ笑うかのように、今日も雨が降る。下駄箱の所で彼女の中嶋さんと楽しそうに喋っている楓雨太と目が合う。話の内容から、二人とも傘を持ってきておらず、親に迎えを頼もうかと相談しているのが分かった。
突然楓雨太が僕に気が付いたのか、彼女との談笑を中断し、寂しそうな笑顔で僕に手を振ってきた。僕はそれを無視して傘を開き、土砂降りの中を歩きだした。これでいい。元に戻っただけだと思えばいい。最初から楓雨太と僕の未来など無かった。今まで通り、僕の世界には雨が降り続けるだけだ。
その時僕はピタリと足を止めた。それは突然雷に打たれたかのような衝撃だった。もしかすると、気づかない間に僕の中に根を張っていたのかもしれない。音楽家の魂に天からフレーズが授けられる時のような霊感。科学者の頭脳が魔法のように導き出すセレンディピティ。
僕はおもむろに踵を返し、楓雨太と中嶋さんの方へと駆け出した。
「太晴!」
「楓雨太。これ、お前にやる。」
嬉しそうな楓雨太にずぶ濡れの折り畳み傘を差し出す。
「え?いや、受け取れないよ。これ、お前のものだろ。それに、お前が濡れちゃうじゃないか。」
「いい。雨に打たれるのは慣れてる。」
「慣れてるとかそういう問題じゃないだろ。お前、具合悪くしちゃうぞ。」
僕は首を横に振って、折り畳み傘を返そうとする楓雨太を拒んだ。
「これはもう要らない。これの処遇は、楓雨太に託したい。もしお前も要らないなら、面倒かけるけど捨ててくれ。その代わり。」
心配そうに僕たちを見ていた中嶋さんと目が合う。ぱっちりとした瞳。どんよりと雨天であるにも関わらず白熱灯の光を受けて艶やかに輝く黒髪。制服の上からでも分かる柔らかい膨らみ。僕がなりたかったもの、僕が占めたかった場所を痛切に思い起こさせるその無邪気な表情。
「明日から、ちゃんと傘持って来いよ。」
「太晴。ちょっと待って、太晴!!」
止める楓雨太を振り切って、僕は全速力で駆けだした。
これが僕の人生なんだ、とその時直感した。内から湧き上がる莫大なエネルギーに突き動かされ、心から笑いながら駆けた。両腕を広げて自分を打ち付ける雨粒を受け止めた。
そうだ。一生雨に打たれ続けても、他の人の場所へ差す陽の光が一生自分に当たらないとしても、それでも走り続けるしかない。どれだけ世界に愛されなくても、それでも愛し続けるしかない。僕は再び傘を必要とするだろう。何度でも転ぶだろう。絶望に打ちひしがれて立ち上がれない時もまた来るだろう。だけど走り続けていれば、ありのままの世界を愛せる自分になれれば、再び楓雨太の横に立てる日が来るような気がする。そう願っていた。
終わり

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