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秘密の扉
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それは、披露宴を一週間後に控えた夜のことだった豊川奈穂。が自分の部屋でくつろいでいると、ノックの後で母の朱莉が入ってきた。数冊のノートを小脇に抱えている。
「ねぇ、菜穂。ちょっといいかしら」
朱莉は深刻な顔で切り出してきた。
「うん、いいけど、どうしたの。部屋に来るなんて。珍しいじゃない」
仕事の疲れを癒していたものの、すでに着替えが終わっているため、菜穂は笑顔を見せた。彼女の部屋は八畳ほど。突き当りに机があり、右側にベッド。左側にチェストがあり、上にはぬいぐるみや小物が置かれている。
「うん、そうなんだけどね。ちょっと話したいことがあるのよ」
返しながら朱莉はベッドの上に座った。同時に、大事そうに抱えていたノートを腿の上に置いた。
「何。その話って」
菜穂も母を追うように隣に座る。
「うん、実はね」
朱莉は腿の上に乗せたノートに目をやりながら話し出した。
「菜穂もいよいよお嫁に行くことになったでしょ。それでね。そろそろ言わないといけないと思ったのよ。今まで秘密にしてきたことを」
「それって、もしかして………」
すぐに思い当たる節にぶつかり菜穂は顔つきを変えた。
「うん、そうよ。お父さんのこと」
母は自分の気持ちに踏ん切りをつけるように強い視線を向けてきた。
「今までお母さんはお父さんのことを隠して来たでしょ。いくらあなたに聞かれてもあえて教えなかったの。でもね。これは別に好きでしていたわけじゃないの。本当は教えてあげたかったの。でも、お父さんの人生は本当に波乱万丈だったからね。小さい頃に教えたとしても理解できないと思ったのよ。だから、今まで話さなかったの。それにより、あなたにはつらい思いをさせたと思うけど、ごめんなさいね。悪気があったわけじゃないから」
朱莉はそこで頭を下げた。
「いいわよ。別に謝らなくても」
戸惑いながら菜穂は返す。
「お母さんとしては、あなたが大きくなってからこの件を話そうと思っていたのよ。だけど、なかなかタイミングが掴めなくてね。そうこうしている内に、お嫁に行くことになっちゃったからね。このタイミングを逃したらもう話せないと思って来たわけ」
「本当に」
菜穂は母の顔を真っ直ぐ見て確認を取った。彼女はこれまでこの件について何度も聞いてきたが、母は頑として拒んできたのだ。
「うん、本当よ」
母は強く頷く。
「でもね。お父さんのことは私の口から直接話すことは出来ないの。途中でつらくなるから。だから、これを持ってきたってわけ」
朱莉は腿の上で大事そうに重ねたノートに目を落とした。
「これはね。お父さんが付けていた日記なの。ここには、お父さんの辿った人生が克明に書かれているわ。だから、これを読んでみて。そうすれば、お父さんのことはわかるはずだから」
そして、ノートの束を差し出した。
「うん、わかった」
菜穂は手を伸ばす。
「でも、一つ約束があるの」
だが、受け取る前に朱莉は条件を提示してきた。
「この日記を読ませてあげるけど、絶対に読んだ後に質問してこないでね。もしこの約束が出来ないのであれば、お母さんはこの日記をあなたに見せるわけにはいかないわ」
「わかったわ。それは約束するわ。私はこの日記を読んでもお母さんに何も聞いたりしないわ」
母の様子に圧倒されながらも奈穂は約束した。
「うん、なら、渡すわ。菜穂が納得するまで読んで。それまで、菜穂に預けておくから」
娘の言葉を信用し、朱莉はノートの束を渡した。
「う、うん、わかったわ」
受け取ったものの、菜穂の心は緊張で固まっている。
「それじゃあ、大事にしてね」
朱莉はそんな娘を残し部屋から出て行った。

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