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本棚に追加第1章:奇妙な喫茶店の新人アルバイトと消えた幻のコーヒー豆
都会の喧騒から少し離れた裏路地、古びたレンガ造りの建物の一階に、ひっそりと「カフェ・ド・ミステール」は佇んでいた。店名の通り、どこか神秘的な雰囲気を漂わせるその喫茶店は、僕、佐倉悠斗がアルバイトを始めて数日目の職場だった。
「いらっしゃいませ、……って、誰もいないか」
慣れないエプロンを締め直し、僕は独りごちた。店内はアンティークな調度品で統一され、壁には世界各地の珍しいコーヒー豆の袋がずらりと並んでいる。鼻腔をくすぐる芳醇なコーヒーの香りは、僕のようなコーヒー初心者にはまだ縁遠いものだった。
カウンターの奥では、マスターの黒崎厳が、いつものように無愛想な顔でサイフォンを覗き込んでいた。50代後半と聞いているが、その鋭い眼光と、ピンと伸びた背筋は、とても隠居生活を送っているようには見えない。かつては「探偵界のレジェンド」とまで謳われた人物だと、面接の時に聞いた。まさか、そんなすごい人が、こんな片隅の喫茶店でコーヒーを淹れているなんて、世の中は本当に広い。
「マスター、何かお手伝いすることはありますか?」
恐る恐る声をかけると、黒崎マスターはちらりと僕に視線を向けた。その視線は、まるで僕の魂の奥底まで見透かすような、そんな錯覚を覚えるほどだった。
「……悠斗、お前はまだ、この店の『空気』に慣れていないな」
「空気、ですか?」
「そうだ。この店には、コーヒーの香りだけでなく、様々な『謎』が漂っている。それを感じ取れるようになるには、まだまだ修行が必要だ」
マスターの言葉はいつも抽象的で、僕には半分も理解できない。でも、その言葉の端々には、彼がこの店とコーヒー、そして「謎」に対して並々ならぬ情熱を抱いていることが感じられた。
その日の午後、いつものように猫田吾郎さんが来店した。60代くらいの小柄な男性で、いつも同じ窓際の席に座り、まるで猫のように気まぐれに店内を見回している。彼の唯一の注文は、日替わりのブレンドコーヒーと、決まって「今日のコーヒーは、まるで幻のようだニャ」という謎めいた一言だった。
「マスター、いつものニャ」
猫田さんはにこやかにそう言うと、マスターが淹れたコーヒーを一口飲み、満足そうに目を細めた。
「ふむ、今日のブレンドも素晴らしい。まるで、そう、幻のようだニャ」
そして、いつものように意味深な言葉を残して、猫田さんは店を出て行った。僕は、猫田さんの言葉の真意を測りかねていたが、マスターは特に気にする様子もなく、次の客のためにコーヒー豆を挽き始めた。
その直後だった。マスターが突然、大きな声を上げた。
「馬鹿な! まさか、こんなことが……!」
僕は驚いてマスターの方を振り返った。彼の顔は、いつになく青ざめている。マスターが慌てて確認していたのは、カウンターの奥にある、厳重に鍵のかかった棚だった。そこには、マスターが「幻のコーヒー豆」と呼んで大切にしていた、特別な豆の袋が保管されているはずだった。
「消えた……! 『幻のコーヒー豆』が、跡形もなく消えてしまった!」
マスターの言葉に、僕は思わず息を呑んだ。まさか、こんな平和な喫茶店で、そんなミステリアスな事件が起こるなんて。僕のアルバイト生活は、どうやら想像以上に刺激的なものになりそうだ。そして、マスターの視線が、僕の背後に置かれた一枚のメモに吸い寄せられた。メモには、奇妙な言葉と、暗号めいた図形が書かれている。
「朝露の雫、苦き誘惑、そして甘美な罠…」
僕の、初めての謎解きが、今、始まろうとしていた。
「いらっしゃいませ、……って、誰もいないか」
慣れないエプロンを締め直し、僕は独りごちた。店内はアンティークな調度品で統一され、壁には世界各地の珍しいコーヒー豆の袋がずらりと並んでいる。鼻腔をくすぐる芳醇なコーヒーの香りは、僕のようなコーヒー初心者にはまだ縁遠いものだった。
カウンターの奥では、マスターの黒崎厳が、いつものように無愛想な顔でサイフォンを覗き込んでいた。50代後半と聞いているが、その鋭い眼光と、ピンと伸びた背筋は、とても隠居生活を送っているようには見えない。かつては「探偵界のレジェンド」とまで謳われた人物だと、面接の時に聞いた。まさか、そんなすごい人が、こんな片隅の喫茶店でコーヒーを淹れているなんて、世の中は本当に広い。
「マスター、何かお手伝いすることはありますか?」
恐る恐る声をかけると、黒崎マスターはちらりと僕に視線を向けた。その視線は、まるで僕の魂の奥底まで見透かすような、そんな錯覚を覚えるほどだった。
「……悠斗、お前はまだ、この店の『空気』に慣れていないな」
「空気、ですか?」
「そうだ。この店には、コーヒーの香りだけでなく、様々な『謎』が漂っている。それを感じ取れるようになるには、まだまだ修行が必要だ」
マスターの言葉はいつも抽象的で、僕には半分も理解できない。でも、その言葉の端々には、彼がこの店とコーヒー、そして「謎」に対して並々ならぬ情熱を抱いていることが感じられた。
その日の午後、いつものように猫田吾郎さんが来店した。60代くらいの小柄な男性で、いつも同じ窓際の席に座り、まるで猫のように気まぐれに店内を見回している。彼の唯一の注文は、日替わりのブレンドコーヒーと、決まって「今日のコーヒーは、まるで幻のようだニャ」という謎めいた一言だった。
「マスター、いつものニャ」
猫田さんはにこやかにそう言うと、マスターが淹れたコーヒーを一口飲み、満足そうに目を細めた。
「ふむ、今日のブレンドも素晴らしい。まるで、そう、幻のようだニャ」
そして、いつものように意味深な言葉を残して、猫田さんは店を出て行った。僕は、猫田さんの言葉の真意を測りかねていたが、マスターは特に気にする様子もなく、次の客のためにコーヒー豆を挽き始めた。
その直後だった。マスターが突然、大きな声を上げた。
「馬鹿な! まさか、こんなことが……!」
僕は驚いてマスターの方を振り返った。彼の顔は、いつになく青ざめている。マスターが慌てて確認していたのは、カウンターの奥にある、厳重に鍵のかかった棚だった。そこには、マスターが「幻のコーヒー豆」と呼んで大切にしていた、特別な豆の袋が保管されているはずだった。
「消えた……! 『幻のコーヒー豆』が、跡形もなく消えてしまった!」
マスターの言葉に、僕は思わず息を呑んだ。まさか、こんな平和な喫茶店で、そんなミステリアスな事件が起こるなんて。僕のアルバイト生活は、どうやら想像以上に刺激的なものになりそうだ。そして、マスターの視線が、僕の背後に置かれた一枚のメモに吸い寄せられた。メモには、奇妙な言葉と、暗号めいた図形が書かれている。
「朝露の雫、苦き誘惑、そして甘美な罠…」
僕の、初めての謎解きが、今、始まろうとしていた。
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