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本棚に追加 生まれ変わりって、信じる?
……あ、いきなりこんな話をしてしまってすみません。
でも今、人生で一番ってくらい感動しているんです。
だって――前世で死に別れた恋人が、目の前に現れたから。
◇
何気なく入ったカフェだった。
社長なんて立場をしていると、休日ですら頭の中は仕事で埋まる。決裁、会議、取引先との駆け引き。気を抜けば、休みの日まで仕事に侵食される。
だから少しだけ、息抜きがしたかった。
通りがかりに見つけた店は静かで、落ち着いた雰囲気で、ガラス越しに見えた照明の色が妙に心地よかった。ただ、それだけの理由で扉を開けた。
そして。
注文を取りに来た君と、目が合った。
ただ、それだけだった。
なのに次の瞬間、頭の奥に強烈な映像が流れ込んできた。まるで誰かの記憶を、無理やり突っ込まれたように。
石造りの城。
冷たい風。
戦火の匂い。
中世ヨーロッパのような時代。鉄と血と炎が、世界のすべてだったような時代。
敵国同士でありながら愛し合ってしまった、王子と姫。まるでロミオとジュリエットみたいな、救いようのない恋だった。出会ってはいけない二人が出会い、愛してはいけない相手を愛した。それだけで、すべてが決まっていた。
泣きながら、腕の中で動かなくなっていく君。
冷えていく指先。ひとつずつ止まっていく息。どれだけ名を呼んでも、もう二度と答えてくれないとわかっていて、それでも呼ばずにいられなかった。
その身体を抱き締めたまま、自分の胸に短剣を突き立てた俺。
願わくは、生まれ変わってもまた君に会いたい。
涙を流しながら、そう願って死んでいった最後の記憶。自分が死ぬことなんてどうでもよかった。怖くもなかった。ただ、冷たくなっていく君が苦しくて、苦しくてたまらなかった。
君より先に逝くことが、唯一の救いだと思っていた。
――そこで、意識が現実へ戻る。
気づけば、どれほどの時間が経っていたのだろう。一秒か、それとも一瞬か。体感では、ひとつの生涯を生き直したような重さがある。
目の前には、注文用のタブレットを手にしたまま、不思議そうにこちらを見ている君がいた。
栗色の髪。
くりっとした愛嬌のある目。
少し高めの身長。
そして、口元の小さな黒子。
全部、同じだった。何百年という時を隔てて、それでも君は君だった。
ただ一つ。
前世では姫だった君が、今世では男だったことだけが予想外だった。
……でも、そんなこと、本当にどうでもよかった。
魂に、性別なんてあるものか。俺が愛したのは君という存在だ。どんな姿をしていたって、それは変わらない。
あぁ、可愛い。
愛しい。
やっと、また会えた。
君をギュッと抱きしめて、頭の先からつま先までキスをしたい。薄い唇を噛んで、ゆっくりと舌を全身に這わせたい。
君は泣きながら縋り付くだろう。快感に弱い君のことだから、耳元にキスをしながら可愛がれば、すぐに溶けてしまうだろう。
そんな妄想が膨らむと同時に、喉の奥が、じわりと熱くなる。胸の奥が熱い。離したくない。もう二度と失いたくない。ただそれだけが、頭の中を埋め尽くしていく。指先がわずかに震えているのに気づいたのは、その後のことだった。
もちろん、表情には一ミリも出さなかった。
昔から、この顔は嫌になるほど人目を引いた。整いすぎているだとか、近寄り難いだとか、好き勝手に言われてきたし、そのせいで面倒事に巻き込まれることも少なくない。
少し愛想良くすれば、勝手に特別扱いされたと勘違いされる。笑えば距離を詰められ、興味もない相手から執着される。ずっとそれが煩わしかった。
けれど今だけは、この容姿に感謝した。
君が、ちゃんとこちらを見てくれたから。好奇心とも戸惑いともつかない、真っ直ぐな目で。
ねぇ。
俺はきっと、もう君を逃がしてあげられない。前世で叶わなかったぶんまで、今度こそ君を幸せにしたい。誰にも渡したくない。ずっと隣で笑っていてほしい。
あの城で果たせなかった約束を、今度こそ。
だから――まずは教えて。
君の名前を。

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