第8話 シャッター

1/1
前へ
 /24ページ
次へ

第8話 シャッター

錦桃。 「ただいま」 「おかえり」 「おかえり、お姉」 「おかえり~お姉ちゃん!」  目を逸らす。 「はいはい、ただいま」  階段を上がる。  外で音。  今日はとても天気が悪い。今にでも、窓がピカピカ光りそうだ。だから、外出するのは困難だろう。 掛けてあるギターをみつめる。 「モモ~家でギター弾いちゃダメだからね」  息を吐く。 「分かっている」  もうー! 外出できない今、私は選択せねばならない。ギターを弾くのか、弾かないのか。 私は“毎日ギター”を胸に掲げている。夢が夢なので、それくらいのノルマは達成しなければならない。だが、この状況でギターを弾けば「アンタ!ご近所さんに迷惑でしょ!」と怒鳴られるに違いない。では、ギターを持って外出することは可能なのか?否!それはできない。なぜなら、私の胸に掲げる理想はなにも一つだけではないからだ。今、ギターを持って外出すれば私の理念が損なわれるだろう。いざ!選択の時! 「答えは一つ」  右手に持ったピックを上に掲げた。 「私はギタリストよ」 同時に。  無音で開くドア。 「ちょ、ちょっと!部屋に入るならノック・・・」 「えーん」  部屋に入ってきたのは明日で十三歳の誕生日を迎える妹だった。 「どうしたの?」 「雷が怖いの!」 「雷?」  カーテンは開けていたが、光は確認していない。音も。だが、外は大雨だ。その音にかき消されたのかもしれない。 「雨の音もうるさいの」  今年一番の大雨になると今朝、そんなことを言っていたなーって・・・そうじゃなくて! 「お姉ちゃん」 今日は一度もギターに触れていないのよ!毎日やらないと意味が・・・ 「怖いよー」  でも・・・ 「今日はお姉ちゃんの部屋で寝ようか?」 「うん!」  もう一つある。私の心には・・・ 「お姉ちゃん!」  理念が形を成している。  シャッター。  音。  光が射す。  「ぴよぴよ」という鳥の囀りが私の目を起こす。 「眠い」  目を円状にかく。 「ぴよぴよ」  やけにうるさいわね。 「ぴよぴよ」 「いや!アンタかい!」  妹の夢はどうやら鳥らしい。 妹を起こさぬように慎重にベッドから抜け出す。まるで、忍者のような足さばきで外へ脱出する。 「朝ご飯できているわよー」 「はーい」 「行ってきます」  どうやら、妹を起こさずに家を出たらしい。 「お姉ちゃん!」  目。 「いってらっしゃい」  間。 「行ってきます!」  私はいつものようにパンをくわえ、学校へ向かう。 「パクパク」  正直、これは遅刻したときにやる秘技だけど。  手を握る。 「いたしかたないわ」 私には出会いが必要なのだ。きっと、私が誰かと付き合うことになれば、あの女は・・・佐藤野花は私から興味をなくすに違いない。そうすれば、晴れて私は自由の身。ギターに専念できるってわけ。誰かと付き合えさえすれば・・・ 「錦さん」  振り返る。 「こんなところで会うなんて」  息を吸う。 「やっぱり、私たち運命だわ!」  目を細める。

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>