夏の風が吹いたら

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夏の風が吹いたら

 どうやら僕は歳を取ったみたいだった。お盆には瓶ビールとグラス、薄く切ったキュウリの浅漬けを乗せて、縁側に腰かけた。腰を下ろす度に「いやあ、どっこいしょ」などと発声したり、酒のアテを手際よく作るあたりに、歳を取ったと感じるのであった。  僕の左隣には蚊取り線香が置いてあり、懐かしい匂いを漂わせている。  夜の縁側は、夏虫たちの大合唱が始まっており、僕はそのコンサートの客になった気分だった。勢いよくグラスにビールを注ぐと、グイっと一息で飲み干す。  目の前に広がる草原。無数の星と三日月。そこに吹く風が気持ちよかった。  僕はラークの箱から、一本の煙草を取り出して火をつけた。 「お兄ちゃん。どう、久しぶりの実家は」 香奈は、気配もなく現れて、蚊取り線香を挟んで僕の隣に座った。 「香奈、久しぶりだな」 「お兄ちゃん、まだ煙草吸ってるのね」 僕たちは並んで座り、夏虫のハーモニーと星空を楽しんだ。 「だって俺は、愛煙家だから。死ぬまで吸うと決めている」 「なによそれ」 「グラスを持ってきなよ。ビールがあるぞ」 「さっき夕飯でたらふく飲んだからいいわ」 蚊取り線香の匂いが懐かしくて、どこか遠い過去の記憶を蘇らす。香奈と僕がまだ小さかった頃の、夏休み。家族でやった花火。そういえば、今夜は花火をしていない。 「ねえ香奈。花火ないの?」 香奈は扇子を仰ぎながら、空を眺めていた。 「コンビニも遠いしねぇ。もう家族全員、飲酒してしまっているし」 「そうだよなぁ」 僕は短くなったラークを、灰皿に押し付けた。 「さて、明日帰らなきゃ」 「お兄ちゃんって、不思議な人よね。私の姿が見えるのは、お兄ちゃんだけ」 「ちゃんと見えているよ、香奈」 風が吹いた。  その風で、香奈の姿は消えてしまった。 「また、会えるさ」 僕は残りのビールを飲み干して、満天の星を再び眺めた。

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