カフェ探偵ブレンドNo.3 静寂の池

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 からかぜ町商店街の一隅にある珈琲豆専門店『コピ・まど』の二階のカフェを間借りして俺は探偵屋を開いていた。 コピ・まどの主人のサモは長い間海外を放浪して日本に戻り生まれ故郷の静岡県のからかぜ町のこの商店街で店を開いた。店の名前の『コピ』はインドネシア語でコーヒーを意味する。『まど』は店の二階の商店街を見下ろす小さな窓にちなんで名付けた。サモはコーヒーベルトと呼ばれる赤道を挟んで北緯二十五度から南緯二十五度にある珈琲豆の産地の国によく出かけている。インドネシアもその産地の一つでサモのお気に入りの国だ。カフェでは今日も朝から紳士と呼ばれる品の良いおじいさんが背筋をピンと伸ばして年季の入ったソファに座ってサモがインドネシアで仕入れた旬の珈琲の味を楽しんでからゆっくり帰っていった。  俺はソファの背中側にある壁の窓から商店街を見下ろし行き交う人を眺めていた。ふと人の気配を感じて振り向くと一人の女性が入り口に立っていた。色白でロングの髪を後ろでまとめ、迷彩柄のシャツに底の厚いトレッキングシューズを履いていた。肌つやから歳は二十代のようだがよくわからない。  女はタナミと名乗るとソファに座り、古いダイニングテーブルを挟んでパイプ椅子に座る俺に依頼内容をゆっくりと語った。  それによると、タナミは後輩のハヤミという女性に自分の家の一部屋を間借りさせていた。ハヤミは仕事を終えて八時には帰宅する。ハヤミは几帳面な子で、帰宅が遅かったりするときは必ず連絡をくれるという。しかし、二日前から連絡もなく帰ってこない。あまりプライベートなことはお互いに話さないので勤め先は知らない。そして、友達や立ち寄りそうな場所もわからない。警察に連絡するのも気が引ける。それで、有名な探偵さんにハヤミを探してもらいたい、という依頼だった。  俺は依頼を引く受けることにした。まずは、ハヤミの立ち寄り先の目星をつけるために、明日、ハヤミの部屋を見せてもらうことにした。 「ところで、先ほどわたしのことを、有名、とおっしゃいましたが、どういうことですか?」探偵がタナミに尋ねた。 「先日の雨の日の逮捕の瞬間を見ました。わたし動画を撮りました。探偵さんがナイフを手で払いのけて、犯人を倒したでしょ。すごくかっこよかったから何度も動画を見ました。ですから、わたし、あの動画をSNSにアップして探偵さんを有名にしたいんです」タナミが饒舌になった。タナミはスマホを取り出すと俺にその動画を見せた。  そこには、若い男がナイフを持って警察官から走って逃げる様子が映っていた。まさにあの雨の日だ。俺は日課の散歩中だった。男は俺にものすごい勢いで迫ってきていた。俺は一瞬でナイフを叩き落とし男を投げ飛ばしていた。  動画にはその様子が鮮明に映し出されていた。 「動画をSNSにアップはしないでください。プライバシーにかかわりますから」探偵は丁重にタナミに言った。 「そうですね。わたしだけのものにしておきます」タナミが答えた。  俺は明日の訪問を約束してタナミを見送った。

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