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本棚に追加 大型重機が、かつて高くそびえていた久世ホールディングス旧本社を一階ずつ崩していった。私は工事現場の囲いの外で、もう保管する必要のない古い書類を、許可を得た処分業者の回収箱へ入れた。
結衣がコートのポケットへ両手を入れ、隣で笑った。
「前に、久世家の半分を私にくれるって言わなかった?」
「会社は再編されて、創業家のものじゃなくなったから無理。でも、私が配達をしながら作った取引先と事業なら半分渡せる。自分の配送会社を始めるの。私を止められる共同経営者がちょうど必要だから」
「やっぱり面倒事を押しつける気じゃない」
そう言いながら、結衣の目元は柔らかく笑っていた。
12
それからさらに一年後の大晦日、新幹線の駅には何度も案内放送が流れていた。改札の外で待っていると、両親が人波に混じってゆっくり歩いてきた。母はあの古い帆布バッグを背負い、父は両手に荷物を提げている。エスカレーターを降りるなり、父は不満そうに眉を寄せた。
「どうしてあれは、あんなに速く動くんだ。足を取られるかと思ったぞ。美月も歩きながらスマホを見るなよ。駅は人が多いんだから、また転んだらどうする」
私は笑いながら駆け寄り、二人を強く抱きしめた。
そのころ、私は日当たりのいい二LDKのマンションで暮らしていた。高級タワーマンションではないが、台所は広く、リビングには朝から光が入る。立ち上げた配送会社の事務所にも近かった。
会社には百人を超える正社員が働き、登録している配達員は千人を超えていた。急に大きくしたのではなく、事故から四年かけ、地域の飲食店や配送員と一つずつ契約を結んで育てた会社だった。
母は部屋へ入るなり台所を確認し、父はテレビの前で立ち止まった。ローカルニュースが、地域密着型の即時配送サービスとして私の会社を紹介していた。
「お前は子どものころ、人がいるところで膝を擦りむいても、声を上げて泣けなかった。それが今じゃ、こんなに大勢の働く場所を作ったんだな。これからは何でも一人で背負うな。家族はここにいる」
私は顔をそらした。何か答えれば、声が震えそうだった。
そのとき、インターホンが鳴った。
結衣が日本酒と餅を持って立っていた。珍しく居心地が悪そうにして、玄関へ入るのをためらっている。
母は返事を待たず、結衣の腕を引いて中へ招き入れた。
「美月から全部聞いてる。この子がここまで来られたのは、結衣さんのおかげでしょう。これからは自分の家だと思って、いつでも来なさい。正月もお盆も、一人で食べなくていいから」
結衣はしばらく目を瞬かせ、耳まで赤くした。
「ありがとうございます。おじさん、おばさん、これからもよろしくお願いします」
母は嬉しそうに食器を一組増やし、父は大切に取っておいた酒の封を開けた。
年が明けてから、四人で家族写真を撮りに行った。
スタジオの照明は明るく、母は父の立ち方が硬いと文句を言いながら、何度も襟元を直していた。結衣は私の隣に立ち、カメラマンが機材を調整している隙に、私の頭の上で指を二本立てた。
私も同じように、結衣の頭へうさぎの耳を作った。
シャッターが切られる直前、スタジオの外の通路に、一人の少年がいることに気づいた。
悠斗だった。
以前より背が伸び、細くなっていた。里親支援の担当者らしい女性が隣に立っていた。別の家族写真の撮影に来ていたのかもしれない。
私たちの視線が一瞬だけ重なった。悠斗は小さく頭を下げ、一歩後ろへ下がった。
私は近づかなかった。
悠斗も声をかけなかった。
それでよかった。
カメラの前では、母が写真を細く修整しすぎないでと注文し、父が困った顔をしている。結衣は笑いをこらえきれず、肩を震わせていた。母は突然、私と結衣を両腕で抱き寄せた。
シャッターの音が響いた瞬間、私はようやく理解した。
家族は、婚姻届や戸籍に書かれた名前だけでつながるものではない。
八年間で負った傷は消えない。娘が戻ってくることもない。
それでもこれからは、あの子が残した小さな足形を胸に、私を本当に大切にしてくれる人たちと一緒に、生きていける。

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