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出来るだけ意識しないよう視線を外すが、その時に大音量で携帯が鳴りだした。しかも、何かのアニメで流れている音楽だとすぐに分かった。犯人は、正面に座る厚着女だった。慌てて携帯を取ろうとするが、上手く手を動かせないでいる。車両の乗客全員の視線を集めながら、女は携帯を切る。
「なんの歌だ?」
俺は咄嗟に口にした。誰にも聞こえないように自問を繰り返した。しかし、疲れもあるせいか規則正しい揺れと音に意識が奪われていき、俺は遠い世界に旅に出てしまった。次々と乗客が降りていく中、俺はまったく世界から戻って来れずに降りるべき駅で降りれずに気付いた時には、乗客は俺と
「嘘だろ……」
厚着女だけだった。そいつは、携帯をひっきり無しに動かしながら、音楽を流していた。またも、知らない曲だが綺麗に澄んだ男性の声で、最近は声優が曲を出す事があると、友人に聞いていたので、それだと勝手に解釈をした。だが、そんな暇はない!俺には帰るべき駅から離れたという絶望と疲労で胸が一杯になっていた。
「次で降りるしかないか……」
数分後に、到着した駅はなんとも有名な場所だった。そこで降りたのは俺と厚着女だけで当然ながら、しばらく立ちつくしていた。ぶら下がる看板を見上げ、じっと眺める。そこには大きくこう書かれていた。
『秋葉原』
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