遥子

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俺は気付くとコケていた。商店街のど真ん中で盛大にこけた。 「……大丈夫かい?」 近くの肉屋がそう俺に尋ねた。急激な恥ずかしさに立ち上がれずにいる俺を心配してくれている。気持ちは有り難いのだが、ここで助けられれば、更なる気まずさを生み出すだろう。 「平気っす!」 ばっ、と立ち上がり、逃げた。軽く何かを言われたような気がするが、構わず逃げた。適当に走り続けたお陰で今の位置はまったく分からない。思い返せば、大学までの道を行ったり来たりの毎日で、周囲に目を預けていなかった。ほんの少しだけ、道を外れただけでこんなにも世の中は広いと実感できた。由紀恵と秋葉原を歩いた時も、違う世界が開けた。こんな考えが持てたのは、由紀恵の影響があったからだ。あっという間に様々な景色が後ろへと流れていく風景を横目で見ながら、立ち止まる。 「そうだな……もう少しだけ由紀恵と遥子の様子を探ろう……考えるのはそれからだ」 俺はそう心に決めた。そして、気付いた。 「ここ、どこだ?」 頭の上で烏が鳴いた。
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