315人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
「お前がそんなだから!」
「何よ!私が悪いの!」
「ああ、そうだ!お前が由紀恵を!」
一階から怒鳴り声が聞こえる。まあ、いつもの事だし、私は慣れている。両親の喧嘩の理由は決まって私だ。人を刺した、人を殴った、人に怪我をさせた。そうなった訳を、両親は互いに譲りあう。なんて仲良し夫婦なんだろう。自然と笑みがこぼれた。
「あ、アニメの時間だ」
壁に掛かった古い時計が視界に入った。暗い六畳程の部屋に、一ケ所だけ明りが灯される。
「やっぱり、オープニングは良いな……」
テレビの中を自在に、動き回って、別の世界で闘うキャラクターを、きっと愛しい気に眺めた。途端、パリン、と硝子が弾ける音がした。二度、三度、四度目が鳴るあたりで、私は遥子となる。
「うるせえんだよ!クソ親が!」
二階の自室から放った叫びは、面白さを感じる位に喧騒を止めた。
「ありがとう……遥子」
謝礼を述べ、またテレビへと釘付けになった。こうやって、私の時間は過ぎていく。
最初のコメントを投稿しよう!