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しばらくして出てきたのは、ごく普通のオムライスだった。これにこの料金か、と真剣に詐欺の疑いを持った。しかし
「文字を入れますね!何が良いですか?」
「……何が?」
そう聞くしかないだろう。実際に解釈の余裕は無かったからだ。
「好きな文字を私がオムライスに書くので言って下さい」
「いや、普通で」
普通、言葉をどう間違えたのかオムライスにケチャップで『普通』と書きやがった。しかも、去り際に変な人とでも言いたげに横目で俺を見る。もし、あいつが男なら今すぐにソバットで悶えさせてやる。そこで、俺の中にいる虫が食料を求めて盛大に音を立てた。
「喰うか」
スプーンでケチャップを丁寧に広げ、掬いとり口に運ぼうとしたが、俺の動きは止まった。視線の遥か先、視界の遥か端に
「なんでだよ……」
厚着女がテーブルに座り、同じようにオムライスを食べていた。唯一違う所は文字を崩さずに削っている事だろう。
「ふざけるなよ……暑いんだよ」
イライラが自然と募り乱暴に俺は、口に運び続けた。
「ちょっと君」
「あ?」
「せっかくメイドさんが作ってくれた料理をそんなにするなんて、許せないな」
そこまで言われ、俺はやっと声の主を確認した。バンダナに眼鏡、無駄に肥えた体系に加え、リュックサックという格好の10代後半程の男だった。
「だからなんだよ」
「もっと愛情を受けながら食べないと、ご主人様として申し訳ないだろ!」
「知らねえよ」
黙って食わせろと、俺は願ったが
「良いかい?つまりね……」
唾が料理に入り、こんな物を口に入れたくはないし、俺は溜めこんだ怒りを全てぶつけた。
「馬っ鹿じゃねえの!人の自由だろうが!お前のこだわりなんか知らねえんだよ!間違えて入ったんだっつうの!」
一気に言った。言ってやった。周りがどんな視線で眺めようが関係なかった。ああ、見れば良いさ!来るべき場所を誤った俺を見れば良いさ!だが、そんな事が恥ずかしくなった。それは、厚着女と目が合ったからだ。いや、厚着女ではない。いつの間にか装備を外し綺麗に整った顔と双ぼうで俺を見ていた。
「くっ……」
タイプだった。めっちゃくちゃ可愛かったんだ。
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