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しばらく宮殿内の過装飾の廊下を駆け、曲がり角に差し掛かる時、見えない向こう側から何か剣戟のような金属が硬いものにぶつかる音が聞こえてきた。
音からして角から距離は近くはないが、誰かが何かと戦っているようだった。
そこから見える気配は二人。
…たとえば、今僕は丸腰なわけです。何か出来ることはありますか。
そう、ありませんね。
…様子は見ますが、手出しできなくても恨まないでくださいね!!
僕は、廊下の曲がり角から、足音が出ぬように、衣擦れの音が立たぬように、そっと様子を伺った。
いた。
そこには、青白い肌色をもつ踊り子のような煌びやかな風貌をした、
魔の者が…。
遠目でもわかる女性の姿をしたそれは、農紺色の頭髪をきつく頭頂に纏め、体の透けるような薄布を艶かしく纏っており、さらに万人の男が視線を釘付けにされるような、なめらかなラインのその腰つき。
しかし細長く伸びた腕のその先。
そこに手首は無かった。
いかに魅力的な体つきをしていようともその異様な風貌には戦慄を覚えずにはいられない。
その手首の先の行方は追うまでも無く、まっすぐに宮殿の兵の喉元にいた。
喉の肉が盛り上がり、その手は喉を軽くつまんでいるようにしか見えないのに、喉の皺だけは増えてゆく一方で。
魔の者には傷一つ付いてないのに、壁に剣の傷跡が付いていただけで。
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