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きぃん!!
壁に切っ先が当たる。
その兵は無我夢中で目の前の侵入者に剣を振るおうと、自分の得物を横に薙いだ。
二撃、三撃。
しかし魔の者は、その血が滴り落ちそうなほどの紅い唇を妖艶に歪ませ、そのものを嘲笑っているではないか。
あれは…もう駄目ですね…。
確信をする。
何撃目かの剣が魔の者の体に届くと思われたとき、彼の体はついに力なく振るえ、倒れた。
…そのまま顔を壁から引っ込めると、僕は逆方向に走るしかなかった。
やっぱり、僕ですかね
僕が居るからですかね
魔王の息子たる僕がここに居てしまったから。
無力は僕は、ただ敵から逃げるしかないというのに。
「キャロルさーん!!!どこですか!!」
一つ角を曲がる。とにかく声を上げたが、辺りはぴりぴりした殺気だけを放っていた。
応答してくれる様子が全くない。
自分が諸悪の根源を呼び寄せているのにキャロルさんを呼んでしまうこの矛盾。
とにかく早く合流したい気持ちで一杯だった。
早く姿を確認して、それからあとは考えていない。
全く。被保護者は、素直に保護者についているべきですよ!?
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