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手カギ…。
釣りの時、
大型の魚を引っ掛けて、船へと引き上げる為の道具だが…
今は身を守る為の、心強い武器だった。
…
桟橋を渡って陸へと向かっていた化け物が、
今は、
はっきりとこちらへ向かってくる…
…
恐怖で身体が強張るのを感じた。
本能で、絶対に勝てない事を察したからだ…
…
絶望が身を包む。
…
手カギが、マッチ棒ほどの存在にしか感じられなかった。
…
黒く光っていた化け物の目は、ほんのりと赤くなっている。
…と…
まばたきした瞬間…
…
化け物は目の前に立っていた…
『…!!』
声にならない悲鳴が出る…
表情のない顔が近づく…
…
ガッ!!
…
左手でアゴの辺りをつかまれ、キャビンに押し付けられた。
顔が触れ合うほどに近づいた時に、
化け物は右手を振り上げた。
…
(…死ぬんだ…)
…
そう思った瞬間、
彰二は力無く手カギを落としてしまった。
…カラン…
ピクッと化け物の動きが止まった。
右手を振り上げたまま、首をかしげ…
落とした手カギを確認してるようだった。
もう一度、彰二の顔を覗き込み…
化け物はゆっくりと手を降ろした。
目の赤い色は消えて、もとの黒に戻っていた。
…
物凄い跳躍力で、彰二の目の前から桟橋へと跳んだ。
化け物はこちらを向き立っている。
「じっとしてろよ」と言われてるみたいで、
思わず彰二は両手を上げて、敵意の無い事をしめした。
やがて…
化け物は桟橋から陸へと上がり、闇の中へと消えていった…
…
しかし…
…
彰二は動けなかった…
…
その震える足は、恐怖の大きさを物語っていた。
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