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「失礼しまず。せんぜえ」
カルテをみると竹下 勲と書いてある。
「竹下さんこちらの……椅子に」
言葉が止まってしまったのは、土気色の顔色はよくある。
竹下さんは、ヨレヨレのスーツの中から右腕が肘の辺りからちぎれたのを左手で引きずりだして、当たり前のように頼んだ。
「せんぜえ、縫ってぐだざい」
俺は内科だし、練習台の豚肉の皮を縫ったことあるくらいだ。
よくみれば血の一滴もでていない。
「もっと大きな病院で早く治療されては?」
俺の提案はあっさり無視された。
「くろすステッヂお願いじまず」
いつの間にか出雲が刺繍セット一式を盆の上に並べて持ってくる。
看護師の白衣に着替えて、髪も綺麗にまとめて結い上げてある。
「先生、クロスステッチはお盆の上の本の29ページに載ってますわ」
喜んで肘から先の無い腕を差し出す竹下さん。
傷口は神経も血管も腐れる所はすべて腐ってた。
「あの申し上げにくい事なんですが、壊死が進んでいますので、とにかく応急措置をして切断も可能性にいれて……」
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