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ある日彼女がいたはずの部屋は、はじめから人間なんか存在しないような寒々しい空間に変わっていた。
彼女がいたベッドを撫でる。
そこには温もりなんかなくて、ただ綺麗で真っ白な、皺一つないシーツがひいてあった。
「母さん、佐伯さんって女の人しってる?」
家に帰ってきた母さんの動きが一瞬とまった。
「…あんた、佐伯さん知ってるの?」
母さんがひどく切なそうな顔をしたので、僕はいやな予感がした。
「夏頃に知り合って、仲良く…してくれた」
母さんは頷くと、佐伯さんの話をしてくれた。
『はっけつびょう』という、僕が知らない病気で亡くなってしまったらしい。
「あのこは強い子だったよ。人前で滅多に泣かなかった…」
彼女はいつも笑顔で俺を迎えてくれた
「うん…いっつも笑ってた…」
初めて彼女に会ったとき
雪のように白い肌で
花のように笑う人だと思った
色白で
綺麗で
冷たくて
でも僕は
確かに彼女が好きだった
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