伝統国の暗陰

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青年は眠っている。 儚げに思える位にほっそりとした顎。 聖女画と錯覚する位に通った鼻筋。 覚めていなくとも正視できない位に整った目。 薄闇を照らす光の筋に見える位に輝く髪。 「‥どれをとっても完敗ね」 青年の眠るベッドの脇から傍観していた一人の女性。その勝ち気そうな目が、いたずらっぽく笑った。 「まるで、あたしの方が夜這いでもかけてるような気分」 女性は一言そう呟くと、すぐに顔を赤らめ、一人うつむいた。 「暗がりで良かったわ‥どうせ、こいつは寝ているんだけど」 メルという名のこの女性は、ザークの王族を直近で守護する副官の職にある。艶のある赤毛を動きやすくポニーテールにし、その凛とした顔立ちには宮廷内でも定評がある。 ユシルの幼馴染みであり、自分からこの職の選任を希望してきた。 自分以外にユシルを守れる者はいない。 それがメルの信条だった。
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