伝統国の暗陰

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肩にはコンパクトに折り畳んだ真新しいライトアーチェリー(軽量弓)を背負い、腰には朱色の束に納めた古めかしいシルバーダガー(銀製の短剣)を下げている。 メルの年齢には似付かわしくないはずの年代物のダガーが、妙に馴染んで見えるのは、それが先祖から受け継がれてきた由緒ある品だからか、並の男性騎士では敵わないメルの実力の故か。 メルは一度深呼吸をして気持ちを切り替えると、不必要な程大きな声を出した。 「起きなさい、ユシル!」 今日は、早朝から臨時の三武会が行われる。 最近、ザーク王国内で、ザーク大王国再興の気運が高まってきている。ザーク公国の盟主の地位にあるとは言え、それは戦勝国であるラークの「計らい」に過ぎず、公国全体についてはもちろん、ザーク領内の政治についても、逐一ラーク王ビンガーに伺いを立てているのが現状である。 伝統国ザークの保守的な風土において、それは民の沽券に直結する問題であった。
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