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星湖の言葉が聞き取れたのは、側にいた藍と翔一、それに、星湖を呼び出した女子生徒の二人だけだった。
「……は?」
聞き返したのは翔一。
星湖は翔一を見上げて、もう一度、「星湖はどうしたの?」と聞き出した。
「…な、何言ってるの星湖?私がわかる?」
星湖は藍の方へ頭だけ向けてにこっと微笑んだ。
いつもと変わらぬ笑みに安心したのもつかの間、
「星湖の友達の藍だろ?わかるさ。」
それは、星湖の喋り方とは確実に異なるものだった。
場の空気が氷つくのを感じる。状況を飲み込めず、翔一は困惑していた。
「お前が星湖じゃないなら…、お前は一体誰だ?」
「誰だ?ああ、君が翔一か。へー、フーン。」
質問に答えようとしないどころか、翔一に近付いてジロジロと値踏みでもするかのように見てくる星湖?に、無理矢理肩を掴んで制止させた。
「いったいな。何すんだよ。」
「お前は誰だって聞いてんだろ!」
「…僕は……」
おとなしく名乗る気になったのだと翔一は肩を掴んでいる手を緩める。
だが、それを狙っていたのか、星湖?は翔一の手を払い除け、自分の後ろの窓に手をかけた。
「僕はお前が嫌いだ。」
「!」
そう言うと、星湖?は自ら窓から倒れるようにして落ちていった。
周りは騒然となった。翔一と藍を先頭に皆が一気に窓に詰め寄る。
が、
「星湖…?」
その姿に、ようやく藍は今朝星湖が見たという夢の話を思い出していた。
「僕の名前はピーターパン。翔一、星湖は僕の約束を果たしに行くんだ。邪魔するな。」
「は…?」
ピーターパンと名乗った星湖の足元には床ひとつない。
彼(なのか微妙なところだが)は口端を吊り上げて笑うと、そのまま眠るように、ゆっくりと地に降りていった。
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