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星湖のベッドを何故窓際にしたのだと、この時ばかりは事情も知らない担当医に憤怒した。
「お医者様と話してる間に…っ!」
星湖の母は涙ぐんでにもう一度探して来ると病室を足早に出ていった。
翔一は、ただ呆然と、星湖の居たであろうベッドを見つめていた。
放課後、翔一は藍と待合室の看護士に教えてもらって星湖の居る病室に向かった。
あの後、星湖は『事故』で『三階から落ちてしまった』ということで、あとから来た先生達によって病院送りとなった。
誰もが納得せずに教室にかえされ、一緒に病院までついていこうとした翔一と藍は、面会は放課後、と釘を打たれてしまった。
ようやく病室にたどり着けたと思えば、星湖の姿が無く、カーテンが風を受けてはためいているだけ。
「…どういう事?」
「決まってる…っ。」
翔一はぎりっと歯を強く噛み締めた。
---アイツだ!
浮かぶのは、にやにやと笑う星湖ではない星湖。
ピーターパンの姿。
「クソ!」
悔しさと怒りでぼすっと星湖の居たベッドに拳を叩き付ける。
「翔一…。」
「…あの日からだ。星湖が大人になりたくないって言い出したのは。」
それは、藍にも思いあたった。
「あの日って、星湖の…」
「あの日の事がなければ、星湖がこんな風に居なくなる事もなかったんだ!」
その時、ゆっくり戸を開けて一人の男が入って来た。
長身で、立派そうな髭を蓄え、長い黒髪を一つにまとめて肩に流している、如何にも怪しい中年男性だった。
その異質なオーラと姿から、翔一達はつい目を向けてしまった。
男にとっては、それはとても都合の良い事だった。
何故なら、そう、男が用のある人物は、他でもない、翔一と藍だったのだから。
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