124人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
その男は、俺達の前で立ち止まると、恭しく礼をした。
「やぁやぁやぁ、初めまして。」
こういう奴はヤバイと、俺の全身が毛を逆立てて告げていた。一見にこやかで物腰のやわらかそうな中年男性だが、男の瞳からは、狂気だけしか感じとれないからだ。
「なぁに、私は怪しい者ではないよ。皆からは、『船長』と呼ばれている。
君達のお友達が突然消えてしまったと聞いてねぇ、私も及ばずながら力を貸そうと思ったのだよ。」
それはどこか、引っ掛かったもの言いだった。
力が及ばないと言いながら、何か鍵を握っている様な。
「星湖がどこに行ったのか、知ってるのか…?」
俺は半信半疑でその男に問うと、笑みを深めて髭を擦った。
「ええ、場所ならば…ね。」
「どういう事ですか…?」
「彼女は今、此処、いや、この世界には居ないのだよ。謂わば別世界。謂わば、異界。
彼女は『奴』に連れていかれたのだよ。」
「『奴』って…。」
その言葉に、俺は反応した。
「そう、ピーターパンだ。大人にはなりたくないという彼女の思考は、全て前世である奴が作用している。全てはアイツの引き金だ!
アイツの自己満足の為に、来世であった彼女は、哀れにも『あの場所』へ行かなくてはならなくなった。可哀想ではないか。」
俺は、この男の話を、いつの間にか真剣に聞いていた。胡散臭い、怪しい男だとか、頭のいってる危険な男だと疑うということは、頭の中からはもう、消え失せていた。
最初のコメントを投稿しよう!