夢に現実

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「よぅ、神之木(かみのぎ)星湖!また遅刻だな!」 やっとの思いで教室にたどり着き、ゼーゼーと肩で息をする星湖に、一人の男子生徒が茶化していた。 「翔一…!勘違いしないで、私は遅刻じゃなくて遅刻しそうになったの! つか、フルネームで呼ぶな。」 「たいして変わらねぇじゃねぇか!」 星湖の短い髪をぐしゃぐしゃにしながら、その男子生徒は笑う。 彼の名は片岡翔一。星湖と同じ16歳。星湖の幼馴染みだ。 小さな頃から星湖によくちょっかい出しては返り討ちにあっていた。 最近は、その外見から女子に人気があって、必然的に星湖に敵対心を持つ女子生徒も多くない。 星湖にとってはいい迷惑だった。 「アンタねぇ…、私が今日遅刻しそうになったのは翔一にも責任があるんだからね。」 「は?何だよそれ。」 星湖はふくれっつらのまま、自分の足元を指差した。 星湖が履いていたものは、上履きではなく、学校来客用のスリッパだった。 「…どうしたんだよ、それ。」 「隠された。」 「は!?何で!?」 「ふざけんな。アンタのファンでしょうが。」 苛立たしげに事の次第を話す星湖は、いつにもなく翔一の顔がこわばっていることに気が付いた。 「翔一…?」 「やったの、どいつかわかるか?」 「えっ…。」 声がいつもより低い。 星湖はすぐに翔一が怒っているとわかった。 「…知るわけないでしょう。」 「そうか、何かあったらすぐ言えよ。」 「ぅ、うん…。」 最近の翔一のこの態度に、星湖は戸惑っていた。 (確かに、昔から友達は大切にする奴だったけど、違う。こんな怒り方…。) 「?」 不意に、星湖は視線を感じた。しかし、辺りを見回しても、誰も星湖に視線を送っている者は居ない。 「どうした星湖?」 星湖の異変に気が付いて怪訝そうにこちらを見てくる翔一に、何でもないの!と慌てて両手を振る。 星湖は翔一に怪しまれないようにこっそり辺りをうかがったが、判らずじまい。結局気のせいだと自己解決してしまった。 丁度その直後に、星湖の頭上を、金色の小さな光が走っていった事にも気が付かずに……。
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