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唐突に言われた一言。
私はすぐには飲み込めなかった。
「…何?」
「だから、冒険だよ星湖。
僕が大人になって、忘れてしまった約束。おじいちゃんになってようやく思い出した思い出。
それを君に託そうと思って。
詳しい事はティンクが近々星湖に会いに来るから、そっちで聞いて。じゃあね。」
「ぇ!?ちょっ…待って!」
ずいぶん勝手な事を告げられて、その男は消えていった。
男が消えたと同時に、景色がグラリと歪んだ。これは、夢が終わるのだと、私はすぐに気が付いた。
アイツは何を言っているの?冒険?
託すって、そんな勝手な…。
他にもまだまだ聞きたい事があった。私はこの夢にとどまりたくて、もう誰も居ない目の前の星空に手を伸ばすが、完全に世界は歪み、弾け飛ぶ様に目を醒ました。
「何なの…。」
雀の声が、やかましく聞こえる。
時刻は5時30分。もう、朝だ。
目が完全に冴えてしまった星湖は、二度寝にもちこむ事も出来ず、夢に出てきた男の子の事を気にしていた。
「あれは、あの服…どっかで見たことあるのよね…。全身緑色の、タイツがダサいあの格好…。」
絵本だっただろうかと、星湖は頭を巡らせた。
そして、それは目が窓に向けられた時に思い出された。
「あっ、ピーターパン!」
そう、彼の格好は、ピーターパンの格好そのままだった。
しかしあれはおとぎ話の世界のはず。彼は星湖を来世と言った。
どういう事…?まさか本当にあれが私の前世なの?
だとしたら…
「ぃやだぁ!そんなのいやだぁ!私の前世が、コスプレ変態野郎なんて!!」
星湖は頭を抱えてそんな悲鳴を上げた。
とりあえず、彼が本物のピーターパンだとは露にも思ってないらしい。
窓際でコトンと小さな音がしたのだが、星湖はそれにすら気が付かない。
つくづく何事にも鈍感な娘だ。
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