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「何だか、『人間』でいるのが辛くなってきました」
「……だがなあ、間嶋。我々人間にしか無い、『友情』って概念も、あるだろ?」
「はあ」
「少なくとも浩子さんは、祐加さんの『友情』に見守られて、逝ったんじゃないかな」
『豚肉』にまで自らを貶め、田中浩子は過去に対して贖罪した。
しかし、そんな彼女を、竹口祐加の友情が、『人間』として見送った。
その竹口祐加の『友情』も、過去の田中浩子に対する贖罪なのか。
「豚肉だって思考する……、か」
神妙な面持ちで言う間嶋に対して、新庄がとんでもない事を言い出した。
「……さて。焼肉でも食いに行こうぜ」
「え、ええええ!? しょ、正気ですか新庄さん!」
「正気に決まってるだろう。今の話を聞いて、二、三日だけベジタリアンを気取る方こそ、エゴイズムってモンだ。だがその代わり、しっかり味わって食えよ。そして、残すな」
「し、しかしですねえ」
その言葉と同時に、間嶋の腹が鳴った。
新庄は、『やれやれ』とでも言いたげな視線を彼に送り、既に玄関へと歩き出した。
優花も、複雑な表情を浮かべながら後に続く。
『思考する豚肉』を、残す事無かれ。
間嶋は、ぶるぶるとかぶりを振って、彼らの後を追った。
<了>
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