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<9>
『殺人犯』が、私達の中にいる──。
頭では解っていた事実ではあったが、その言葉を耳にした今、改めてその事実を噛み締める事となった。
誰が、村田隆康を殺害したのか──。
思考が、うまく機能しない。ただでさえ、理解し難い非現実が、この密閉空間を充満させているというのに。この、奇妙な空気に彩られた閉鎖空間に、6人──いや、7人の男女が佇んでいた。
そこに居合わせた誰もが、自分以外の他人に対して抱く疑心暗鬼に苛まれていたのであろう。
それを肯定するかの様に流れる、重苦しい沈黙。
真実を知りたいという欲求と、ただ純粋に、この場から逃げ出したいという欲求。
それらの思いが綯い交ぜになって、思考はやがて、現実逃避を試みる。
だが。
静かに横たわる村田の亡骸は、否応も無く、我々を現実へと引き戻す。
ほんの、後ほんの少しのきっかけさえあれば、精神が崩壊してしまうのではないだろうか。
沈黙の空間には、そんな、ギリギリの精神が錯綜し続けていた。
「ハウダニット」
新庄が、聞き慣れない言葉を口にした。
「……即ち、どうやって彼を殺害したのか」
壁の時計から目を逸らし、新庄はゆっくりと我々全員の顔を見渡した。
「これに関しては、我々全員に、それが可能であったと言っていいでしょう。店内が突然の停電に見舞われて、地震が発生しました。やがて、今現在の様に、非常灯が明るさを取り戻すまでの間に、被害者は生命を落とした。その間──、時間にして、約1分から1分半」
また、新庄は壁の時計に目をやる。
『時間』を気にしている?
「──それだけの時間があれば、ここに居合わせる全員に、犯行は可能だったと言えます。……いや」
新庄が、背後を振り返る。
「──偶発的に発生した地震の影響により、自らの意思での出入りが困難になったと思われる、トイレ内部の人物。少なくとも、その『彼』ないし『彼女』に対しては、その可能性が極めて低かったと判断せざるを得ません」
そうか。
つい先程、石橋が新庄に食ってかかってはいたが、そう考えてみると、トイレの人物が犯人である可能性は低い。
「可能性の差はあるにせよ、この場にいる全ての人間に、犯行は可能であった。その点は、御納得頂けますか?」
新庄の言葉に、口を挟む者は見当たらない。
その様子を確認して、新庄はさらに言葉を続ける。
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