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開かれた扉。
薄暗い、トイレ前の通路に、天井から真下に降り注ぐ、非常灯の弱々しい光。
その儚い光源すらも、私の眼には刺す程に激しい。
暗闇に、その灯が台形の筋を形作り、そのスポットライトの内部を、無数の細かい木片が踊っている。
そこに。
思いもよらぬ人物が、ゆらりと姿を現わした。
「……嘘」
私の口から洩れた呟きが、静寂に満たされた店内に溶け込む。
本来ならば、私と共に、今夜海外へと旅立つ筈であった人物。
自分の体質を皮肉り、自分の好きな映画のタイトルを店の名に冠した人物。
事ある毎に、私の心の闇を、親身に取り払ってくれた人物……。
トイレから姿を現わしたのは。
この店の主であり、私にとっての数少ない良き理解者でもある、初老のアルビノ・キャリア。
──山崎朋彦、その人だったのである。
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