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「……ピコを、助けて、下さい」
泣きじゃくりながら絞り出す彼女の声に、新庄は、大きく息を吐いた。
「間嶋、鍵はあったか?」
「はい、はい! ここに!」
同行した、背の高い新庄の助手が、彼にそれを手渡す。
さっきまで、浩子が手に握っていた物だ。
新庄はしゃがみながら、田中に声を掛けた。
「救急車には、先に行って貰って下さい。我々は後から追います」
「私も、ご一緒します」
田中が言う。
「浩子さんに付き添わなくても?」
「はい。やれる事はやりましたから。後は病院に搬送してからです。それよりも僕は、この娘の真意を聞きたい」
田中の言葉を受けて、新庄が祐加の視線に気付いた。
「……こちらは、浩子さんのお兄さんである、裕之さんだ」
「え、あ、どうも初めまして、あの、竹口祐加と申しま──」
「……知ってるよ!」
自分でも驚く程に、彼女に対して刺のある物言いをしてしまった。
沈黙が室内を支配し、それを掻き消す様に、救急車のサイレンが鳴り響く。
開け放たれた玄関の扉から、赤色灯が放つ灯が飛び込んで来て、新庄や祐加の顔を照らした。
「……竹口祐加さん。貴女は何故、浩子さんを、あの様な酷い、呼び方で」
「……『豚肉』、ですか?」
目に溜まった泪を拭いながら、彼女は驚く程毅然とした態度で、新庄に言う。
「そ……、そう、それです」
「ピコが皆さんに何を言ったかは解りませんが、今は何も言いたくありません」
竹口祐加は、そう断言した後、口を噤んだ。
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