Thinking Pork. -解決篇-

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「そう、原点だ」 新庄は、フィルターだけになった吸殻を揉み消し、また新たな一本に灯を点けた。 「『豚』という生物が『人間』というまた別の生物に管理され、『豚肉』という非生物へと変わり行くその世界を、彼女は幼少の頃に垣間見た。その体験が、それからのちに起こる『いじめ』という概念に、ある意味融合してしまったのかも知れない」 「……融合」 「『人間』という生物が、また別の『人間』という生物に、理不尽に管理される。それが、 『いじめ』というシステムの本質だとする。そこに来て彼女は、自らをあの、養豚場で儚き生涯を送る、『豚』と同じだと解釈してしまった」 間嶋が、ごくりと喉を鳴らす。 「その結果、彼女は『豚』が 『豚肉』になってしまう前に、また別の対象を『豚』にする必要があった」 「……それが、自殺した同級生?」 「……恐らく」 「ば、馬鹿げてますよ、そんなの」 「我々外様が、その心理を馬鹿呼ばわりするのは容易いさ。だが、当事者にとっては、どの様な理論を打ち立ててでも、そこから逃げ出さねばならない。……現に浩子さんは、その結果として、『豚』から『人間』への回帰を見せた」 ……そして彼女は死期を悟り、『人間』から『豚』へ、そして『豚肉』へと、自らを貶めた……。 「『いじめ』なんてモンは、無いに越した事は無い。だが、 『人間』という愚かな生物は、『豚』や『牛』、『鶏』などの生物から恩恵を与えられて生きている立場であるというのに、それらの存在に、『家畜』などという呼称を付けて管理している。……いや、管理した気になっているだけだ」 間嶋は、こめかみを押さえた。 「それらの生物の痛みが解らない内は、『いじめ』という概念は無くならないのかも知れん」 「……胸が、痛みますね」 「……そうだな。『豚肉』だって、『思考』する権利はある、って事だ」 「人間だけが、『思考』している気でいるな、と」 「……うん。だが、その解釈すらも、『人間』のエゴに過ぎん。『いじめ』だけに限らず、 『戦争』や『殺人』という概念を持つのも、我々『人間』という種族だけなんだから」 間嶋は、深い溜息を洩らした。
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