現在、逃走中。

2/9
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
今日も目覚ましに勝ってしまった。 「…………マジ?」 もちろん、目覚ましよりも早く起きたという意味では無い。 「ヤベェ………。」 定価4000円した、『最強!轟音ザウルス君(通称ザウルス君)』に見事勝利し、現在進行形で遅刻中。 「あら!なっちゃん、まだいたの!?」 これはババァの声。 というか朝ご飯食べてない時点で、気付いても良いのではないかと毎朝思う。 『毎朝』という事は、『毎朝、ザウルス君に勝っている』という意味もあるわけで…。 「だから毎朝言ってんだろ!『起こしに来てくれても良いだろ』って!!」 階段を駆け上がる音が部屋中に響きわたる。 どう考えても、ザウルス君よりもはるかにこちらの方が目が覚める。 ふすまを開けた時の乾いた音と共に、ババァの足が視界に入ってくる。 「だから毎朝言ってるでしょ?」 今度はババァの恐怖の微笑みと、首と腰にくる違和感が一気に襲ってくる。 「口の聞方に気を付けなさいって!!」 痛い。 猛烈に痛い。 他の家庭なら、やり返そうと思えば出来るのだろうが、うちは違う。 「痛いだろうが、くそババァ!!」 ―だからといって、やられたまま黙っているほど、俺はMじゃない。 蹴られたからには、蹴りでかえす。 ケンカの基本だ。 ―だからといって、素直にやられてくれるほど、ババァだってMじゃない。 むしろ、ドSだ。 「昔はあんなに可愛かったのに、今では母さんに暴力をふるうなんて、……反抗期かしら?」 ババァはそんなことを呑気に言っている。 もちろんその下には俺が横たわっているのだが。 「ところでなっちゃん、学校はどうしたの?」 …すっかり忘れていた。 現在時刻は、………かなりヤバイ。 それはもう、涙が出てくるほどに。 「行ってきます!」 今日は、今日だけは遅刻するわけにはいかない。 なぜなら、今日は恐怖の委員会決めの日だからだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!