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余程大事にしているものなのか、あまり触らせてもらった記憶もない。けど、今は僕の手の中だ。
あんな人が大事にしてるものなんて、壊したい。何もかも無くなればいい。あんなの、母親なんかじゃない。僕は覚えてる。【あの日】を。忘れなんて絶対しない。壊してしまえばこっちのものだ。少しでもあの人を傷付けさせたい。
僕ばかり傷付いて、独りで、本当に独りで、もう嫌だ。壊そう。早く壊そう。でも。でもなんだよ。手がまた震えた。でもこれは大事なものだって。そんなの知らない。僕は沢山大切なものをあの人に奪われた。だから僕だって奪っていいはずだ。そうだよ。いいんだ。
オルゴールを持った両手を思い切り振り降ろした。オルゴールから手を放す。ガッシャーン。言葉にしたらそんな感じの音を立てて、オルゴールはバラバラに砕けた。あぁ。いい気味。でも。でも少しだけ。このオルゴールの音色が聞きたかった。
どんな音を響かせたんだろう。あの人の大切にしていたオルゴールは。
そう考えた瞬間、――――――――――――――――――――――世界が真っ暗になった。
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