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過去
より子、藤乃、真一の三人は、その後の夜を眠れないまま過ごした
真一が母の姉にあたる人物である、より子の家に引き取られて、ちょうど九ヶ月が経とうとしていた
新しい家族との暮らしにも、自分の生まれ故郷とは正反対の東京での高校生活も、ようやく肌に馴染んできたところだった
浅神一家は、東京の下町に住んでいる
より子の夫である浅神大輔(だいすけ)は、キャリア二十年を越える個人タクシーのベテラン運転手である
一人娘である藤乃は今春大学を卒業し、就職したばかりである
真一とはと言うと、生まれ故郷は、東京より桜の開花が一ヶ月程遅い、枚川(ひらかわ)という市である
真一の父親である日下幹哉(みきや)は十二年前失踪し、そのあと五千万円の「公金横領」が発覚した時には、「財務課長補佐」という肩書まで付いていた
真一は父が昇進した時、家族でささやかなパーティーをした事を、かすかに覚えている
その肩書が災いして、やがて新聞に横領の事実がデカデカと書き立てられ市民の非難と軽蔑の的になるなど、その時は夢にも思わなかったからである
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