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少し身を乗り出して、猫の行動を見る。
逃げたが、何か警戒してまだ車の方を見ている。
わかった。
誰かが太陽の光を反射させて、猫を照らしてるんだ。
猫はその光の動きを追って、本能のまま動いている。
ふふっ。
決して捕まえることのできない獲物を追う姿は滑稽(こっけい)で、少し笑ってしまう。眠気はどこかに吹き飛んでしまった。
先生に気付かれないように手鏡を取り出し、「誰か」と一緒に猫をからかう。
彩子の光に気が付いた「誰か」は、猫をからかうのをやめ、妙な動きをしだした。
?
何だろう、見ているとチャイムが鳴った。
「橘~!」
教師が彩子を呼ぶ。
号令をかける。それが彩子の仕事だ。
「起立! 気を付け! 礼!」
その一瞬で、教室が一変する。今日の授業はこれで終わりだ。
ざわめきの中、彩子は立ったまま窓の外を見るが、「誰か」の光は消えていた。
この学校の生徒だろうか。まったくもってくだらない。
しかしそんなくだらなさが、彩子は好きだ。小学生のころもこんなことをして遊んだ記憶がある。
子供特有のくだらなさ。それを、いつの間にか忘れている自分に、少しだけ悲しくなった。
「橘さん。そろそろ文化祭の打ち合わせに行かないと」
文化祭実行委員のクラスメートに、話しかけられる。
現実という上司に、懐古はすぐに解雇された。
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