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生徒会室。
彩子はクラスの級長でもあり、青葉中学の生徒会長でもある。
再来週に控えた文化祭の打ち合わせ。それを仕切るのも彩子の仕事だ。
狭く雑然とした生徒会室に各学年の実行委員が集まり、予算や当日の役割分担などを決めている。
彩子は自ら生徒会長に立候補し、文化祭というイベントも大好きである。運動会、新入生歓迎会、修学旅行……。いつもの学校、いつものクラスメート。でもその日だけは何かが違う。その違いにドキドキする。
しかし、こういった細かい裏方的な作業は嫌いだ。話し合いが行われている今も、彩子を360度どの角度から見ても、やる気のなさが伝わってくる。
細く長い手の上にあごを置き、もう片方の手はシャーペンをくるくるまわしている。
好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。それを無理して変えることはしない。これが橘彩子の生き方。
人に嫌われかねない性格ではあるが、好き嫌いの振り分けに共感を抱く生徒や、そのハッキリとした行動に憧憬(しょうけい)する生徒が多いのも事実である。
「あの……会長。一応終わりましたけど……」
副会長の男の子が、おそるおそる話しかける。
「ん? ああ終わった? じゃあ解散! お疲れ様!」
もちろん、生徒会室を最初に出たのは、彩子その人である。
日に日に、陽(ひ)が落ちるのが早くなるのを実感する放課後。
彩子が校門までの道を歩いていると、昼間教室から見た猫がまだそこにいた。
やおらしゃがみ込み、指で猫を引き寄せる。じゃらされることに慣れているのだろうか、猫はすぐに彩子の元へやってきた。
「からかったりしてごめんね」
言ってから、光を反射させていたもう一人の「誰か」を、思い出す。
まだいるわけもないのに、彩子は校舎の方を見上げた。
彩子の教室は三階。一階と二階は二年生の教室だ。四階にも三年生の教室はあるが、角度的に無理だろう。それに明らかに「誰か」の反射させた光は、彩子の光と角度が違う。おそらく階下の教室だろうと推理する。
気が付くと猫は彩子から離れ、アスファルトの地面に体をこすりつけていた。
彩子は立ち上がると、誰かの光が最後にとった謎の動きが胸に残った。
猫が少し寂しげに、彩子を見た。
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