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火曜日。
快晴の翌朝、自分の席に付くと彩子は、無意識に窓の外を見ていた。
太陽の位置関係から、午前中では光を反射するのは無理だとわかっていながらも、つい目を向けてしまう。
今日も出るだろうか? 彩子はそんなことを思いながら授業を受けていた。
四時間目の体育を終え、仲の良い友達と弁当を食べる。そしてそのまま世間話へと繋がる昼休み。
ちょうど話題のネタも尽き、予定調和のように睡魔が襲ってくるころ、五時間目開始を告げるチャイムが鳴った。
体育での適度な疲労感。満たされた食欲。今日もがんばるお天道様。これで寝るなと言う方が間違っている。
もうだめだ。
彩子はいつも通り、あくびを隠すように顔を窓に向けた。
はっと、光のことを思い出す。
すっかり忘れてしまっていた。
通学路を見ると、散歩でもしているのだろうか、校長先生が歩いていた。
そしてよく見ると、例の光が校長のうしろをつけている。
「誰か」の光は、うろうろしながらもジワジワ校長に近づく。
――ま、まさか……。まさかまさか!
彩子の心拍数が一気に上昇する。
頭髪の後退した校長の頭を、光がピンポイントで照らした。
くっ!
自分の腕をつまんで、必至に笑いをこらえる。
だめ、笑っちゃだめ。まだ授業中……。
人間とは不思議なもので、堪えなければいけない、という制約がある時ほど堪えられないものだ。
しかし彩子は、これまでに培った集中力、精神力をフルに使い、赤くはれ上がるほど腕をつまんで、笑いという大津波を抑え込んだ。
彩子の後ろに生徒がいたら、突然プルプルと震え出した彼女を見て、恐怖を覚えていただろう。
素晴らしい……。
勇気ある「誰か」の行動に、心から拍手を送りたくなる。スタンディングオベーションものだ。
…………。
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