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しばらくたって、その囀りに混じって何かが耳に飛び込んでくるのを感じた。
天は慌てて立ち上がった。
周りを見渡し、そしてもう一度よく耳を澄ます。
それはまるで、人の歌声のようだった。
これが噂の、と天は半ば息をするのも忘れていた。
これが噂の根拠だった。
近所のたくさんの人間がこの歌を聴いて、妖精だの幽霊だの言っていたのである。
まるで誰かを呼び寄せているかのように、甘く、やさしげな声だった。
もしこれを歌うのが仮に妖怪なのだとしたら、……自分たちはあまりに汚すぎる。
天はほとんど無意識に、その声を求めて森中をさまよっていた。
今まで噂を聞いても、その正体をつきとめようなどと思ったこともなかったし、馬鹿馬鹿しいとさえ思っていたこともあった。
それでも、どうしてもその声に近づこうとする、自分の中の何かに抵抗することが出来なかった。
そして自分にとってそれが何を意味するのか、自分がいったい何を求めていたのか、それが自分にとってプラスになるのか結局わからないまま、天はそこに辿り着いてしまっていた。
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