第三章 出会いの歌

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思えば、不思議な光景だった。 一番最初に天の目に入ってきたのは、どう見ても何の変哲も無い木の箱。 それにはたった二本のアンテナのようなものがついているだけで、他にいるのはただ一人の少女だけだった。 海と空。その当たり前の構図の中に、彼女は存在していた。 表情を微妙に変えていく空と海との間に、この世界は存在していた。 「何してるの?」 少女は驚いてこちらを振り返った。 大きな瞳を持つ、人間らしくないくらい細い少女だった。 近くの海で集めてきた貝殻にひとつひとつ穴を開けてつないだ飾りを、漆黒の短い髪に巻いている。 少女はまじまじと天の顔を覗き込んだ。 ふっと笑みをこぼして天の顔から目をそらす。 「もう逢えなくなった人を、呼んでるんだ」 ふーん、と言っただけで天はまた空を眺めた。気持ちのいい青空だった。 少女はくすりと笑った。 「でも、どーやら、別の人を呼んじゃったみたいだね」 天はうん、と頷いた。「そうみたいだね」 静まり返った二人の間を、森独特の匂いが通っていった。
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